2階 寝室
<戦争からこっち お祝い事と 不幸が 入れ子になって 物事も月日も どんどん過ぎていきます。 うちも あっちゅう間に 35や。『諸行無常』っちゅうやつやなあ>
(物をぶつける音)
糸子「あんたら ほんまに 何回 言うたら 分かるんや!」
(2人の悲鳴)
糸子「ちょっと こっち来い! えい!」
(犬の遠ぼえ)
糸子「ええか あんたらの名前はな 死んだ おじいちゃんが 付けてくれたんや。 優子ちゅうんはな 優しい子て書くんや。 優しい子になれちゅうこっちゃ! せやのに何や。 直子に いけずばっかし言うて! あんたはな 素直の直で 直子や。 姉ちゃんにゴテてばっかし いちゃった あかんやで!」
優子「聡子は?」
糸子「あ? 聡子は あれや。 神戸のおばあちゃんが 付けてくれんや。 賢い子になるようにちゅうて。」
優子「賢い子?」
直子「聡子 賢ないで。」
2人「アホや!」
糸子「ええんや 聡子の事は! うちは あんたらの話をしてんや! ほんとに ゴテばっかし言うて!」
玄関
<こんな子らでも 朝んなったら 小学校へ 幼稚園へ>
3人「行ってきます!」
2人「行っちょいで~!」
<ちゃんと出かけてって くれるんは 頼もしい事です せやけど 昼過ぎたら まず 聡子が帰って来て>
オハラ洋装店
糸子「聡子! 2階 行っとき 言うたやろ!」
優子「はよ返し!」
直子「うちのや!」
優子「嘘つくな!」
直子「うちのや!」
<あとの2人が帰って来たら もう てんやわんや>
糸子「やめ!」
(2人の争う声)
糸子「やめ!」
優子 直子「痛い 痛い!」
糸子「聡子もおいで!」
安岡家
安岡美容室
(小鳥の鳴き声)
3人「こんにちは~!」
玉枝「あれ? あんたら また来たんけ?」
3人「うん!」
玉枝「せやけど 先週も来たとこやん。」
優子「お母ちゃんが『行き』ちゅうた。」
八重子「お母ちゃん あんたら おったら 仕事になれへんやな。」
玉枝「しゃあないなあ ほな 聡ちゃんからおいで。」
3人「お邪魔します~!」
玉枝「はいはい。 せやけど あんた これ以上切ったら ドングリの はかまみたいに なってしまうで。 どないする~?」