小原家
居間
糸子「え? 組合長? 組合長て あの組合長?」
松田「ええ 泉州繊維商業組合の。」
糸子「…が 何で うちを料理屋なんか 呼び出すんや?」
松田「何か 先生に話したい事が あるそうですわ。」
糸子「ええ~! けど ちょっと 気まずいなあ。 不義理してしもてんや。 結局 月会合かて 1回も行ってへんしな。」
松田「先生 あの 待ってくれてんやから はよ行ってきて下さいよ。」
糸子「いや 恵さん 行ってきてよ。」
松田「何 言うてるんですか。 先生に話がある言うてんのに!」
糸子「う~ん そやけど 忘年会も 新年会も1回も行ってへんしな。」
松田「ほんなもん うちが ちゃんと 謝っときましたさかい!」
糸子「え~!」
松田「ほら行ってきて下さいよ もう ちょっと ほら立って!」
糸子「しばかれたら どないすんねん!」
松田「そんな事ないですから。 立って!」
糸子「あの人 怖いんやで!」
松田「怖いからって このままにしとったら ずっと 待ってますで あの人。」
糸子「ええ~!」
松田「立たなあかんて。」
料理屋
♬~(『東京ブギウギ』)
北村「久しぶりやんけ。 分かれへんのかい? わしや わし!」
糸子「あ~! 北村さん?」
北村「すっと 出てけえへんけ?」
糸子「どうも 何ですか? その黒メガネ。」
北村「組合長 来ましたで~!」
三浦「おう!」
糸子「ご無沙汰して すんません!」
三浦「久しぶりやなあ。」
糸子「すんません。」
三浦「いや すまんな 忙しいとこ 呼び出して。」
糸子「いいえ こちらこそ すんません 組合長。 いろいろ誘ってもうてたのに。 うっとこが いかんせん その ちっこい店でして なかなか抜けられんやったりで。」
三浦「そら あんたも もう 一国一城の主や。 まあ 何なと事情はあるわな。」
糸子「すんません。」
三浦「けど 何やな 事務所の方にも まるで 顔 出さなんだんは 誰ぞ 会いとない奴でも おったんか? やっぱりそうか。」
糸子「堪忍です。」
三浦「まあ 飲み。 うん…。」
糸子「はあ。 すんません。」
三浦「こいつか?」
糸子「は? いえ~ めっそうもない!」
三浦「ほう。 ほな 何ぞ 商売敵でも おったんかいな?」
糸子「いや… ほんなんも いてないんですけど。 あ…どうぞ!」
三浦「あ~ おおきに。」
糸子「いるんですか?」
北村「当たり前やんけ!」
三浦「今日はな こんな話で 呼び出した訳やないんや。」
糸子「はあ…。」
三浦「なあ 小原はん。 この北村に… 手ぇ貸しちゃってくれんか?」
糸子「は?」