金太「あ あ… う… うん… そうじゃ。」
菊井「いや しかしですね 舶来のぶどう酒だって 西洋音楽を聴かせたら おいしゅうなるいう話です あんこも…。」
杵太郎「そねえなもん聴かさなんでも うちのあんこは うまい。 ハッハッハッ。」
金太「そ… そうじゃ…。」
黒鉄「いえ 私らのためじゃねえんです。 奥さんや 若奥さんの娯楽に…。」
小しず「そねえ ぜいたくな。」
ひさ「町内でラジオ持っとるいうたら 荒物屋のケチ兵衛さんくれえじゃ。」
金太「吉兵衛さんじゃ。 町内会長さんつかまえて ケチ兵衛て…。」
杵太郎「とにかく ラジオは 買わん!」
算太「おう おう おう 安子も欲しかったわなあ ラジオ。」
工場
安子「おはようございます!」
金太「おはよう 安子。」
一同「おはようございます。」
金太「小豆ゅう炊きょうるから 入ったらおえんで」
安子「おじいちゃんは?」
金太「うん? まだじゃ 何か用か?」
安子「おじいちゃんが ラジオ買うてくれた!」
黒鉄「えっ…。」
金太「えっ…。」
菊井「えっ…。」
金太「本当か!?」
算太「はあ~ 本当に じいちゃんは安子に甘えのう。」
ラジオ『岡山県の天気予報を 申し上げます。 今日は 移動性の高気圧に覆われて 爽やかな秋晴れの天気おなりましょう』。
ひさ「へえ~! 今日は気持ちのええ秋晴れじゃあてえ。」
小しず「そねえなことも教えてくれるんですねえ。」
ラジオ『明日は 終日 雨になり 北東からの冷たい風が…』。
杵太郎「明日りゃあ 雨なんか。」
安子「おじいちゃん! ラジオ買うてくれて ありがとう!」
杵太郎「そねえなもん 買うとりゃせんで?」
一同「えっ?」
安子「せえでも 枕元に このお手紙が…。」
金太「算太! ありゃ どこ行った… おい。 おい。」
金太「こりゃ 算太! あのラジオ どねしたんなら! まて… こりゃあ! おい! おんどれ…!」
算太「うわっ!」
荒物あかにし
吉兵衛「おめえか! わしのラジオ盗んだん!」
金太「すんません このとおり! こらえたってつかあさい。」
吉兵衛「いいや こらえん! こりゃあ れっきとした窃盗じゃあ。」
算太「う~ん まあ… あんたが 店先に うけっ放しのラジオ 置いて 飛び出していったから 魔が差したんじゃなあ。」
金太「黙っとれ お前は!」
清子「お産婆さんを呼びに 飛び出さはったんです。」
金太「おっ 清子さん! 生まれたんか!」
清子「おかげさんで 安産でした。」
金太「お~!」
2人「かうぇえらしいのう!」
清子「ねえ あなた。 おめでたい時なんやさかい もう これで。」
吉兵衛「いいや! こらえん!」
金太「あの…。」
杵太郎「すんません。 お邪魔してええじゃろうか。」
吉兵衛「大将まで来て頭ぁ下げても こらえんけえな!」
杵太郎「いや~ 違うんじゃ。 今な 産婆のトメさんから聞いたんじゃ。 おめでとうございます。」
吉兵衛「今回だきゃあ 大目に見てやらあ。」
3人「ありがとうございます。」
清子「ハハッ すいまへん。 おおきに。 ウフフッ。」
金太「かわ… かわ。」
杵太郎「かうぇえな。 ハハハッ。」
清子「おおきに。」
金太「かうぇえらしい。」