病院
千吉「勇。 これまで ようやってくれた。 一つ 頼みがあるんじゃ。 これから ますます暮らしぶりが変わって 需要が少のうなっても 足袋ゃあ 作り続けてくれ。」
勇「もちろんじゃ。 足袋ゃあ 雉真の1番バッターじゃからのう。 いずれまた 打順が回ってくることあらあ。」
千吉「ありがとう。」
勇「ああ。」
千吉「これで 会社のこたああ 何も思い残すこたあねえ。 思いもかけん形じゃったが 跡継ぎも作ってくれたしのお。」
勇「ああ… ハハッ。」
千吉「心残りゃあ るいのことじゃ。 あねん明るかった子が 声う出して笑うことものうなって…。 わしが 安子さんに るいと引き離すようなこと言わなんだら こねえなことにゃあ…。」
勇「それだけじゃねえはずじゃ。 あんこが るいを置いて アメリカへ行くじゃなんて… よっぽどのことがあったはずじゃ。」
<程なくして 千吉は 息を引き取りました>
雉真家
リビング
♬~(テレビ)
勇「雪衣。 何ゅう のんきにテレビやこ見よんなら。」
雪衣「支度は全部整うてます。」
勇「じゃからいうて 葬式の朝に。」
雪衣「今日が最終回なんです。」
勇「はあ…。 昇。 おめえも 葬式の朝に…。」
昇「葬式が始まったら勉強できんから 今やりょんじゃ。」
勇「はあ…。」
テレビ『少し頭を下げてから 一人でタラップを上っていった』。
勇「あっ るいは?」
河原
勇「あ…。 るい!」
るい「勇叔父さん。」
勇「あ?」
るい「おじいちゃんのお葬式が終わって いろいろ片づぃたら 私… 家を出らあ。 ナイスキャッチ。 さすが往年の名選手じゃね。」
勇「えっ 家を出るて…。」
るい「家を出て 岡山も出る。 新しい町で 一人で生活う始めるんじゃ。」
勇「そうか…。 もう決めとるんじゃのお。」
るい「うん。」
勇「るいのために 積み立てとった金がある そりょお…。」
るい「要らん。」
勇「えっ?」
るい「アルバイトをしとったんじゃ。」
勇「ええ?」
るい「学校の帰りに 小せえ古本屋で。 誰にも雉真家の者じゃいうんが 分からんように。」
勇「ハッ。 いや… 読書部に入っとる言よおったは…。」
るい「ごめん。 うそじゃ。」
勇「ハハ…。」
るい「じゃけど 似たようなもんじゃろう。」
勇「あ~ かなわんのう るいにゃあ。」
<るいは 二度と戻らないと心に決めて 岡山を そして 雉真の家を去りました>