道中
るい「あっ…。」
平助「ああ…!」
るい「ああ!」
平助「ああ…。 うわあ すまん すまん。」
るい「すいません。」
平助「うわあ えらいこっちゃ…。 お嬢ちゃん ちょっとおいで。 ちょっとおいで。」
るい「いや あの 私 これから仕事の面接が…。」
平助「あかん あかん あかん あかん…。」
るい「えっ あの 面接…。」
平助「危ない! 危ないで。 すんません すんません。 すんません すんません。」
竹村クリーニング店
平助「はい。 はい 早く。 洗濯や!」
和子「お帰り。」
平助「大至急や!」
和子「どないしたん。」
平助「そこで ぶつかってしもたん。」
和子「また ちょうちょでも追いかけながら よそ見して こいどったんやろ。」
平助「誰が そないな小学生みたいな こぎょうすんねん。」
和子「な… 何ちゅうことすんねんな かわいそうに。 こんなんなったら デート行かれへんがな。」
るい「デート?」
和子「おばちゃんがな 洗といたげる。 きれ~にしといたげる。 そやけど あかん。 デートには間に合わん。」
るい「あの デートじゃのうて 面接…。」
平助「お前の 何かないんか…。 昔 着とった あれ!」
和子「今 取りに行こ思たんや。 やかましな!」
平助「ちょっと待っとってな。」
るい「すみません 荷物まで預かってもろうて。」
平助「かめへん かめへん。 また後で取りに来い。」
和子「いや~ うちの若い時に そっくりやわ。」
平助「どこがや。」
和子「デート 頑張ってな。」
平助「面接や。」
るい「行ってきます。」
平助「うん。」
和子「うんうん。」
面接会場
「そろばん検定1級。」
「接客業は やりはったことありますか?」
るい「古本屋さんで アルバイトをしょうりました。」
「古本屋かあ。 ホテルの接客とは だいぶちゃうなあ。」
(笑い声)
「ほな ちょっと立って 『おはようございます』 『いらっしゃいませ』って 言うてみてくれる?」
るい「はい! おはようございます。 いらっしゃいませ。」
「うん。 声もよう通るし ええんちゃうかな。」
「うん。」
「ちょっと 顔の表情が見えにくいな。 前髪 上げてもらえる? ピンで留めて おでこを出してもらいたいねん。 ホテル業は 清潔感も大事やさかいなあ。」
るい「失礼します!」
「えっ?」