居間
吉右衛門「この度は せがれが 大変ご迷惑をおかけしました。 このとおり おわび申し上げます。」
錠一郎「あ~ いやいや…。」
るい「赤螺さん どうぞ お手を上げてください。 ひなたかて悪いんです。」
吉右衛門「いや。 男子たるものが おなごに けがを負わせるやなんて 言語道断です。 この私が厳しゅう叱っておきました。 後で 本人にも謝りに来させます。」
るい「わざと やったわけやありませんし…。」
吉右衛門「聞いたら 10円の小銭を得るために 空き瓶を拾い集め その一本を取り合うたと 言うやありませんか。 情けない。」
ひなた「いや それ 私の悪口やない?」
吉右衛門「これは 心ばかりのおわびです。 どうぞ お納めください。」
るい「困ります 赤螺さん。 こんな…。」
吉右衛門「いや。 こうでもしいひんと 私の気ぃが済みません。」
るい「いや でも…。」
吉右衛門「どうか これで ご勘弁を。」
るい「あっ ちょっ… 赤螺さん? いや でも…。 ちょっ 赤螺さん? あっ ねえ ちょっと 赤螺さん。」
錠一郎「あかんで ひなた。」
ひなた「何で?」
錠一郎「いや さすがに これは… 分厚すぎる…。」
るい「帰ってしもた。 後で返しに行くわ。 ちょっと。 何してんの?」
錠一郎「97 98 99 100。」
ひなた「さすがケチエモン。」
錠一郎「ちょうど100枚や。」
ひなた「100枚!」
錠一郎「ああ。 ということは?」
ひなた「100回引ける!」
錠一郎「10回や。」
ひなた「あ~ 惜しい。」
錠一郎「よっしゃ ひなた。 今度こそ熱海旅行や。」
ひなた「うん。」
るい「熱海旅行? ちょっ… 何の話?」
錠一郎「あ~… ひなた もう言うてええか?」
ひなた「うん。」
錠一郎「いや 福引きで 1等の熱海旅行当てて で… お金に換えよう言うてたんや。」
るい「えっ?」
錠一郎「ひなたが英語教室 通いたいんやて。」
ひなた「お父ちゃん。 はよ福引きしに行こ。」
錠一郎「よし 行こか。」
るい「英語…?」
荒物屋・あかにし
森岡「…95 96 97 98 99 100。 確かに 100枚。 10回や。」
錠一郎「よっしゃ いけ ひなた。 狙いは赤玉や。」
ひなた「あ~。」
森岡「ハズレ。」
ひなた「うう…。」
森岡「風船ガム。」
ひなた「くっ…。 お父ちゃん。」
ひなた「あ~。」
森岡「ハズレ!」
森岡「あ~ ハズレ。」
ひなた「惜しい!」
森岡「ハズレ。 ハズレ。 ハズレ…。 ハズ…。 ハズレ~。」
ひなた「お父ちゃん。 最後の一回や 頼んだ!」
錠一郎「これで また白玉やったら お父ちゃん 腹切って おわびするわ。」
ひなた「うん。」
森岡「いや そない大層なことやない!」
錠一郎「いざ!」
るい「待ち!」
ひなた「お母ちゃん。」
るい「私が引く。」
ひなた「えっ!」
(ベル)