るい「お茶いれるさかい 回転焼き食べとき。」
ひなた「いらん。 もう飽きた。」
錠一郎「ひなた。」
ひなた「飽きた!」
るい「ひなた。 どないしたん? お姉ちゃんになるからて ずっと ええ子にしてたやない。」
錠一郎「ひなた。 回転焼き お父ちゃんと一緒に食べよ。 お父ちゃん おなかすいたんや。 ほら 半分ずつにしよ。 なっ?」
ひなた「いらんて言うてるやん!」
錠一郎「ひなた! いつから そんな子になったんや。」
るい「ジョーさん。」
錠一郎「謝れ! お母ちゃんにも 回転焼きにも 謝れ!」
るい「ひなた!」
錠一郎「もう ほっとき。」
(戸の開閉音)
錠一郎「ひなたが悪い。」
賀茂川
(すすり泣き)
るい「『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある。 お母ちゃん 見参』。」
ひなた「お母ちゃん。」
るい「ひなた。 帰ろ。」
ひなた「ごめんなさい。 ひどいこと言うて。 ひどいことして…。 ごめんなさい。」
るい「ええんや。 子供は 子供で いろんなこと抱えてるもんや。 そやろ?」
ひなた「何で分かるん?」
るい「お母ちゃんも 昔 子供やったから。 何があったん? お母ちゃん 聞いてもええ?」
ひなた「ビリーが… あの… 前にお店にきた外国の子。」
るい「覚えてるよ。」
ひなた「アメリカへ帰ってしもたみたい。」
るい「会うたん?」
ひなた「今日 店に来てん。 けど… 私 何にも しゃべられへんかった。 『こんにちは』も 『元気ですか』も 『回転焼き食べましょ』も。 覚えたはずやのに…。 英語が出てきいひんかった。」
るい「そうか。 初恋やったんや。」
ひなた「ごめんなさい。 お母ちゃん。 ごめんなさい。」
るい「何で謝んの。」
ひなた「全部 無駄にしてしもた。 お母ちゃんが 福引きで当ててくれたラジオも。 買うてくれたテキストも。 お父ちゃんが作ってくれた出席カードも みんな…。 お母ちゃん。 何で 私は こうなんかな。」