映画館
場内
五十嵐「んっ。」
ひなた「えっ 買うてきてくれたん?」
五十嵐「お前に借りは作りたくない。」
ひなた「ふん。 チケットのお礼やて 素直に言うたらええやん。」
五十嵐「ふん。 もともとタダ券のくせに。」
ひなた「腹立つなあ。 うん? 自分の分は?」
五十嵐「俺はいらない。」
ひなた「何で?」
五十嵐「何でもだ。」
ひなた「ふ~ん…。」
(開演のブザー)
(鳴き声)
「お侍様! どうか… どうかお助けください! この里は 妖術使いに操られているのです。 どうか!」
口々に「お願いします!」
『暗闇でしか 見えぬものがある。 暗闇でしか 聴こえぬ歌がある』。
『黍之丞 見参』。
(刃音)
「はっ はっ… てやっ!」
「あ…。 ううっ!」
「やっ!」
「があっ! ぐあ…。」
電車
五十嵐「本当 すごかったなあ 殺陣。」
ひなた「うん。 すごかった。」
大月家
回転焼き屋・大月
五十嵐「本当に すごかったなあ 殺陣…。」
ひなた「うん ホンマにすごかった…。」
五十嵐「虚無蔵さん かっこよかったなあ。」
ひなた「うん かっこよかった。」
五十嵐「確かに 映画は訳分からんかったけど…。」
ひなた「うん 訳分からんかった。」
るい「ひなた。 どこ行くん。」
ひなた「あれ?」
るい「ぼ~っとしてるんやから。」
ひなた「ただいま。」
るい「お帰り。」
五十嵐「こんにちは。」
るい「こんにちは。 すいません 娘につきおうてもろて。」
ひなた「逆やわ お母ちゃん。 私が五十嵐を連れてったったんや。」
五十嵐「じゃあな。」
ひなた「えっ? 回転焼き買いに来たんと違うん?」
五十嵐「あ~ またにする。」
ひなた「えっ 何で? せっかく ここまで来たのに。」
五十嵐「いや~ 今日は…。」
ひなた「えっ?」
ひなた「えっ えっ ちょっと…。」
五十嵐「あ~…。」
ひなた「五十嵐! やめてえな こんなとこで死体の稽古なんか…。」
るい「五十嵐君!? 大丈夫? 五十嵐君?」
ひなた「えっ ちょっと 五十嵐? 五十嵐!」
るい「五十嵐君!」
居間
一同「頂きます。」
五十嵐「頂きます。 はあ~。 うん。」
錠一郎「ええ食べっぷりやなあ。 すいません。」
るい「そら 倒れるほど おなかすいてたんやもんねえ。」
ひなた「晩ごはん食べるお金も あらへんのやったら ポップコーンなんか 買うてくれんでもええのに。」
五十嵐「うるさい。」
錠一郎「偉いなあ。 食べるもんも食べんと 稽古に励むやなんて。」
桃太郎「そういうの 『武士は食わねど高楊枝』っていうんやで。」
ひなた「よう知ってんなあ。 桃。」
るい「高楊枝はええけど 体壊したら 元も子もあらへんで。」
五十嵐「はい… 分かってはいるんですけど…。」
るい「1人暮らし?」