おでん屋・風車
1階店舗
咲太郎「それじゃ 雪次郎に乾杯!」
一同「かんぱ~い!」
レミ子「頑張る かんぱ~い!」
雪次郎「頑張る 乾杯! ありがとうございます! ありがとうございます! ありがとうございます…。」
亜矢美「はい 皆さん 今日は おでんの仕込み さぼっちゃいました ハハ…。 だから とことん飲んでちょうだい!」
雪次郎「はい。」
咲太郎「そのかわり 俺が 今日は 天ぷらを揚げるからな。」
雪次郎「あ~ 咲太郎さんの天ぷら 久しぶりだ!」
光子「本当においしいの?」
雪次郎「いや おいしんですよ これが。」
亜矢美「料理人だったお父上直伝だもんね。」
咲太郎「そう。 思い出の中のな。 これ食って 明日からも頑張れよ 雪次郎。」
雪次郎「はい!」
<頑張れよ。 俺の天ぷらを 本当に教えたかったな。>
レミ子「蘭子さんに 共演者だって 認めてもらえたもんね。 羨ましいわ。」
坂場「蘭子さんの芝居は 確かに すごいと思いました。」
雪次郎「えっ?」
坂場「しかし 劇団としては どうなんでしょうか?」
雪次郎「どうって?」
坂場「演出にしても 何か新しいものを 生み出してやろうとする意欲を 全く感じることができませんでした。」
なつ「何を言いだすんですか…。」
雪次郎「あれは チェーホフですから。」
坂場「チェーホフなら 新しくなくてもいいんですか? 昔の人から教えられたような ありきたりの新劇でいいんですか?」
なつ「ちょっと!」
雪次郎「ありきたりだと? 蘭子さんの芝居が ありきたりだと言うのか?」
坂場「いや ただ蘭子さんの芝居を見せるために やってるように見えたと言ってるんです。 そのための劇団でもいいんですか?」
雪次郎「何言ってんだよ… あんたに 何が分かるんだよ!」
咲太郎「あ~ おい おい おい… 油使ってんだから そんなに興奮するな!」
坂場「あなたは そうは思いませんか?」
なつ「やめて下さい! それを言ってどうするんですか?」
坂場「僕は 雪次郎君が それを変えてゆく きっかけになればいいと思ったんです。」
なつ「え…。」
雪次郎「きっかけ?」
坂場「せっかく蘭子さんに 認めてもらえたのなら 何か新しいものを生み出す きっかけになればいいと 僕は そう思いました。 雪次郎君が 蘭子さんや劇団を変えてゆくような そういう存在の役者に なってほしいと思いました。」
咲太郎「なるほどな。 ただの共演者で満足するなということか。」
亜矢美「うん それは言えるかも。」
咲太郎「そうすれば 蘭子さんだけの劇団じゃなくなるし 辞めた劇団員たちを見返せるよ。」
雪次郎「はい…。」
レミ子「そのことで 最近 劇団は分裂したばかりだから。」
坂場「そうでしたか。」
茜「だったら 初めから そう言えばいいのに。」
なつ「そうですよ! あなたは 人の反感を買ってからでないと まともなことが言えないんですか?」
坂場「問題を考えもせずに いきなり答えを出すことは傲慢です。」
なつ「それで 結果的に 傲慢に思われてるんですからね。 少しは気を付けて下さい。」
坂場「分かりました…。 どうも失礼しました。」
雪次郎「あっ いえ…。」
なつ「はあ… 全く もう。」
光子「仲がいいのね 2人は。」
亜矢美「あっ そういうお二人さん?」
坂場「いえ ただの仕事仲間です。」
なつ「そうですよ。」
光子「ちょっと ねえ… 焦げ臭い!」
咲太郎「ああ! 天ぷら焦げた!」
一同「ああ~…。」