おでん屋・風車
亜矢美「孤児院から逃げ出して 新宿の街に流れ着いたあの子は 闇市で 靴磨きを始めてね。 だけど 勝手に始めたもんだから 周りの浮浪児たちから 袋だたきに遭ってね。 そこ たまたま 私が助けたっていうのかな。」
なつ「靴磨きをしてたんですか… 兄が?」
信哉「顔見知りのいない新宿で ほかに生きるすべが なかったんだろうな。」
亜矢美「しょうがないから 親分さんとこに連れてって。」
藤田「ラーメン食わしてやったら ボロボロ泣きだしてな フフフ…。」
回想
咲太郎「北海道に行きたいんだ… 妹を迎えに…。 北海道へは どうやったら行けますか?」
回想終了
なつ「お兄ちゃんが 北海道へ…?」
亜矢美「うん。 妹のためだと思って 行かせたのはいいけれど 一人になってみたら もう会いたくて会いたくて たまんなくなったって。」
信哉「同じこと考えてたんだな…。 なっちゃんと同じことをしてたんだよ。 あいつは。 帯広と新宿で。」
亜矢美「だから あなたを 捨てたってわけじゃないからね。 私が捨てさせたの。」
藤田「そりゃ違うだろ。 あんた また踊っただけだ。」
回想
(タップする靴音)
回想終了
藤田「あいつは ここで生きる決心をしたんだ。」
亜矢美「それで 救われたのは 私の方だったんだよね。 生きてく希望なんて 何もなかったからね あのころは。 あなたのお兄さんを 長いこと 引き止めちゃった。 ごめんね…。」
なつ「あなたがいてくれて 本当に いかったと思います。 私にも 北海道に家族がいるんです。 亜矢美さんが 兄を支えてくれたことを 私が否定してしまったら 私は 北海道の家族も 否定してしまうことになるんです。」
なつ「だから あなたに失礼なことをしたなら 謝ります。 本当に すいませんでした。 それから お礼を言いたいです。 兄を助けてくれて 本当に ありがとうございました!」
亜矢美「ああ…。 ああ もう… やだ やだ ほら 頭上げてよ。 ねえ ねえ ほら 座って 座って ほら ほら…。 ねえ ねえ… あっ そうだ そうだ。 咲太郎に聞いたんだけどさ 何か 夢があるんだって?」
なつ「はい。 それも 北海道に行けたから 夢を持つこともできたんです。 ムーランルージュを 今でも夢みてる兄と おんなじです。」
亜矢美「じゃ いろんな苦労も したかいがあったんだね。」
なつ「はい。」
信哉「悲しみから生まれた希望は 人を強くします。 喜びから生まれた夢は 人を優しくします。」
亜矢美「この人… 詩人さん?」
なつ「いえ 放送記者です。」