1階居間
咲太郎「落ちたか…。 東洋動画に落ちたのか?」
雪次郎「はい…。」
咲太郎「落ちたか…。」
雪次郎「それで なっちゃん かなり気落ちしてると思うんです。」
咲太郎「だろうな。」
雪次郎「普通に働いてるんですけど つらそうなのが よく分かるんです。」
咲太郎「それで なつは これから どうする気だ?」
雪次郎「分かりません。 それで 悩んでるんだと思います。」
咲太郎「う~ん…。」
川村屋
社員寮
(ノック)
佐知子「わあ 咲ちゃん!」
咲太郎「よう さっちゃん! 元気?」
佐知子「元気よ。 どうぞ。」
なつ「えっ お兄ちゃん…。」
咲太郎「よう 元気か?」
なつ「こんな時間に どうしたの? 外出よう。 佐知子さんに悪いから。」
佐知子「いいよ 気にしなくて。」
咲太郎「いや 元気ならいいんだ。 なつの顔 ちょっと見に来ただけだ。」
なつ「聞いたの?」
咲太郎「ん? ああ… まあ。」
佐知子「入って。 きょうだいで 遠慮することないって。 私 邪魔なら 外出てようか?」
なつ「あ… ううん いいの。 すいません。」
咲太郎「お邪魔します。」
なつ「ずうずうしい。」
咲太郎「俺と さっちゃんの仲だし。」
佐知子「ね。」
なつ「そういうところが ずうずうしいの。」
咲太郎「何だ 元気じゃねえかよ。 もっと しょげてるかと思った。」
なつ「しょげてますよ これでも。」
咲太郎「そうか。 いい薬 やろうか?」
なつ「薬?」
咲太郎「さっちゃん ビールある?」
佐知子「ビール?」
なつ「ない! そんなの ない!」
咲太郎「ジョークだよ。」
佐知子「買ってこようか?」
咲太郎 なつ「あっ いいの いいの。 大人のジョークだから。」
なつ「どこが大人なの。」
咲太郎「ん?」
咲太郎「大人になったな お前も…。」
佐知子「はい 麦茶。」
咲太郎「あっ ありがとう。」
佐知子「暑いから開けるね。」
なつ「はい。」
咲太郎「あ~ 涼しい。 なつ。 大人は ビールより苦いものを 時には ぐっと飲み込んで 生きていかなくちゃならないんだ。 東洋動画なんて ビールの泡みたいなもんだよ。 気にするな。」
なつ「泡なのは こっちだよ お兄ちゃん。」
咲太郎「えっ?」
なつ「私みたいなのが あんな大きな会社に 本気で入ろうとしてたんだから。 落ちた時のことなんて 何も考えてなかったんだから。」