(戸をたたく音)
雪次郎「あっ お義父さん!」
剛男「ごめんね こんな朝早く。 急いで帰ってきたら 変なタイミングで着いてしまって。」
雪次郎「いや なんもです。 これ よかったら どうぞ。」
剛男「ありがとう。 それにしても すごいことになったね…。 あ… 夕見子が面倒かけて申し訳ない。」
雪次郎「あ いえ… 言いだしたのは男たちですから。」
剛男「でも まあ 思ったより 物騒な話でなくてよかったよ。 女房自慢 楽しそうじゃないのさ。」
雪次郎「そったら のんきなものじゃありませんよ。 夕見子ちゃん 出てっちゃうかもしれないんですよ!」
剛男「あ ごめん…。」
雪次郎「あ いや いや… すいません むきになって。 自分が不安なだけで。」
剛男「不安?」
雪次郎「俺が 夕見子ちゃんに してあげられることって あったんだべかって…。 夕見子ちゃんは 俺と違って しっかりしてるし 強い人だし 俺なんかいなくても 生きていけるんでねえかって…。 何かしたいんですよ。 したけど どうしたら 夕見子ちゃんに ふさわしくなれるのか 分かんなくて…。」
剛男「雪次郎君が 夕見子と会ったのは 小学校に入ってからだもね。」
雪次郎「はい。 あのころから よく どなられてました。 雪次郎は男らしくねえっつって。」
剛男「ハハハ… そうかい。 したけど もともと夕見子は あんなふうに はっきり 物を言う子でなかったんだわ。」
雪次郎「えっ?」
剛男「部屋で本ばかり読んで あまり 人と話したがらない子だった。」
雪次郎「夕見子ちゃんが…?」
剛男「うん。 いや したけどね 僕が戦争に行くってなって もしかしたら もう戻れないかもしれない ってことを伝えた時 あの子は 泣くのを我慢して こう言ったんだわ。」
回想
夕見子「お父さんが帰ってくるまで 私が うちを守るから! したから 絶対に帰ってきて!」
回想終了
剛男「もしかしたら あれから ずっと 夕見子は みんなを守らなくちゃって 思ってるのかもしれない。」
回想
雪次郎「雪見は 夕見子ちゃんみてえに 強くねえんだわ。」
夕見子「あんたに… あんたに何が分かんのさ。」
回想終了
雪次郎「俺… もう少し考えてみます。」
剛男「うん。」
雪次郎「はい。」