周造「はなも 元気でいろし。」
リン「朝市 見送りに来てねえけ? どけえ行っちまっただか 姿が見えんだよ。」
はな「おばさん。 朝市 まだ帰ってこんだけ…。」
リン「うん…。」
吉太郎「あっ 迎えが。」
三郎「ちょっくら ごめんなって。」
はな「花子でごいす。 よろしゅうお頼み申します。」
三郎「ほれが まずいこんになっただ。 話が違って 女のボコじゃ いらんだと。」
はな「え…。」
三郎「先方は 力仕事ができる 男のボコを お望みで。」
はな「ほんな…。」
ふじ「ほんじゃあ はなは お役に立たんですね。」
「ほうじゃ。 男のボコしか いらん。」
周造「そうさな… はなは どこにも行かんで ずっと ここにいろし!」
はな「ふんだけんど…。」
リン「何ずら 人騒がせな話じゃんけ! 餞別の腹巻きまでやったに!」
(笑い声)
三郎「ふんじゃあ 前に置いてった この俵 持ってくわ。」
吉太郎「待ってくりょう! 男なら ここにおる! おらが 奉公に行くずら。」
ふじ「吉太郎!」
はな「兄やん!」
吉太郎「おらを連れてってくりょう。」
はな「ほりゃあ 駄目だ! 兄やんが いんようになったら おじぃやんも おかあも 困るじゃんけ! おら 力仕事でも 何でもしますから おらを連れてってくれちゃあ。」
吉太郎「はな! 女は いらんちゅうとるじゃんけ。 おらが行く。」
居間
ふじ「吉太郎! 考え直してくれちゃあ!」
吉太郎「おかあが止めても おらは 行く。」
ふじ「どういで?」
吉太郎「おらは おとうに好かれちゃいん。 いつか このうち 出てこうと思ってただよ。」
周造「キチ…。 ちょうどいい折じゃんけ。 おらが行けば 米が残る。 冬が越せるじゃんけ。 おかあ… ふんじゃあな。」
玄関
はな「あっ 兄やん! 兄やん!」
ふじ「吉太郎! 気ぃ付けて…。」
はな「兄やん…。 兄やん… 兄やん! 兄やん! 兄やん! (泣き声) 兄やん!」
作業場
はな「おらが 奉公先なんか 頼まんかったら 兄やんが行くこたぁ なかったさ。 おらのせいだ。」
周造「ほうじゃねえ。 そうさな… 貧乏神のせいずら。 汗水たらして働いて 寝る間も惜しんで こうして内職して ふんでも貧乏なんだから 誰も悪くねえ。 悪いのは 貧乏神ずら。 元気出せ。 ん…。 熱いぞ。 はな 熱があるじゃんけ!」