閉店後、店にやってきた河上
牧原「おかげ様で大繁盛ですよ。清流企画さんには感謝してもし切れないぐらいで」
河上「それがコンサルタントの仕事ですから。ただ、牧原さんご自身が納得してるかどうかも大事なことなんで」
牧原「どういう意味ですか?それ?」
河上「失礼、先ほど少し泣いておられたようなので」
河上「商売というのは難しいものです。自分の作りた物とお客様の求める物は必ずしも一致しませんし、自分が信じた味がお客様にお客様に受け入れていただけるとも限らない」
牧原「なんで・・・泣いたんですかね、俺。自分でもわからないんですよね。繁盛したことが嬉しいのか、こだわりを捨てたことが悔しいのか」
河上「どちらもではないでしょうか?あなたが流した涙は嘗て内の社長も流した涙ですから」
牧原「え」
回想終了
牧原「そのあと味惑コーポレーションで働いている知り合いって人の名刺くれたんだ。もしいまた新しい店を持ちたければ相談してもいい。芹沢社長も了解してるって」
白坂「社長と部長が・・・」
牧原「清流企画さんに店を手放す相談はし難かったし、お前にも申し訳ないってのもあってな。今はこの小さな店で自分が作りたいラーメンを作ってる。相変わらず客は少ないけどな、満足しているよ、俺は」
そこにお客さんがくる
客「まっきぃ、新作ラーメン、ラーメンライスでよろしく!」
牧原「はい、お待ちください」
ゆとり「ラーメンライス?」
牧原「あれ?知らないラーメンライス?じゃあせっかくだから2人も食べて行きなよ。新作でいい?」
ゆとり「これってただの白いご飯ですよね?おかずは?」
白坂「ラーメンライスってのはこうやって食べるんだよ。まずラーメンを啜って、それからご飯を食べる」
ゆとり「主食をおかずに主食を食べるってことですか?」
牧原「そう、麺がなくなったら残ったご飯をスープの入れるとね、オジヤ風になってまた美味いんだ」
白坂「苦手な人は苦手だけど、元祖ボリューム系の食べ物だよ。ライス無料サービスの店もあるしね」
牧原「そうそう」
白坂「なんか懐かしいっスね。大学ん近くの中華料理屋にみんなで食いにいって」
牧原「ラーメン専門店はあんまり最近こういうのはやらないんだけどな。内は材料拘ってるから原価かかっちゃてて、足りないボリュームをライスで補ってるわけよ」
ゆとり「いただきます」
ゆとり「お?」
白坂「どうしたの?」
ゆとり「変な感じ、でもちょっとワクワクします!」
清流企画
白坂「おはようございます」
芹沢「おはよう。早いわね」
白坂「昨日泊ったんですよね。ゆとりちゃんが閃いてコンペメニューの試作を始めたんで手伝ってて」
芹沢「そう」
白坂「あの社長、牧原さんの件、申し訳ありませんでした。俺の考えが至らなかったせいで」
芹沢「白坂、あなた大きく間違えたわけじゃないのよ。商売である以上顧客のニーズに沿うのは当然。内の社員は特にラーメンフリーク的な、そんなメンバーが多いからリサーチやトレンドを重視した、あなたみたいなタイプは貴重な戦力だと思ってる」
白坂「ありがとうございます」
芹沢「だからその武器を生かすためにも、次のステップに進んでほしいの、特に最近あなたのタイプが陥りがちな落とし穴にハマりかかってるんじゃない?」
白坂「落とし穴?」
調理室からゆとりが声をかける
ゆとり「社長、おはようございます。コンペメニューの試作、見ていただけませんか?」
ゆとり「どうでしょうか?楽麺房のメニューとしては少し凝り過ぎてるかも知れませんが」
芹沢「確かに、賭けの要素がややあるわね」
芹沢「いいわ、内はこれでいきましょう」
ゆとり「はい」
芹沢「白坂、明日のコンペ、あなたもついてきなさい」
コンペ当日
蒲生「それではラ楽麺房池袋店・店舗限定メニューのとして提供するボリューム系ラーメンのコンペを始めさせていただきます」
蒲生「ジャッジはラーメン評論家の有栖さん、私、そして弊社の若手社員8名が務めます。実際に来店されるお客様の年齢層に近い食いっぷりにいい連中を集めましたのでラーメン2杯程度ならペロリの平らげるでしょう」
有栖「それではまず、清流企画さんからお願いします」
ゆとり「はい」
調理を開始したゆとり
蒲生「具材は揚げ物ですか」
有栖「ボリューム系では無難な選択ですね。問題は何をもってくるかですよ」
ゆとり「お待たせしました。完成です」
福花「これはご飯を挙げた所謂オコゲですか」
有栖「いただきますか」
蒲生「いただきます」
蒲生「サクサクして実に美味い」
ゆとり「お米をカツオだしで炊いてラーメンの醤油ダレをたっぷりまぶし冷凍して水分を飛ばしてから揚げました」
有栖「これは良いラーメン自体こってりしたとんこつスープにプルプルの太麺で、そこにカリカリのオコゲが加わることで2つの食感を楽しめる」
芹沢「そのオコゲラーメンには、もう1つ仕掛けがあります。そろそろ効いてくるかと」
難波「味が変わった?とんこつ味のスープがとんこつ魚介しょうゆ味に」
蒲生「なるほど、オコゲの味付けのカツオだしと醤油ダレが溶け込んだんだ、美味さだけでなく楽しさも満載ですな」
有栖「山あり谷ありで口を飽きさせない創意工夫、これはつまりラーメンライスの進化系ってわけだ」
ゆとり「そうです!ラーメンライスをヒントにしたってよくわかりましたね」
有栖「そりゃボリューム系ラーメンの原点だからね。僕も学生時代はライス無料の店に通い詰めてお代わりし過ぎるもんだから、何件出禁になったことか」
蒲生「私もラーメンライスは若い頃によくやりました。このメニューの考案はそちらの汐見さんが?」
芹沢「ええ、私は最終チェックをしただけです」
蒲生「若いのに大したもんだ」
ゆとり「ありがとうございます」
有栖「それでは続いて味惑コーポレーションさんに調理していただきましょうか」
蒲生「清流企画さんが大好評だったので少々やり難いかも知れませんが」
難波「蒲生社長、お言葉を返すようですが、やり難いどころか、むしろこのコンペの勝利を確信して安心しております」
蒲生「随分強気ですね」
難波「確かに素晴らしい味でしたが清流企画さんはボリューム系にとっての肝を掴んでおられなかったので」
芹沢「お手並み拝見します。難波さん」
調理を開始する難波
ゆとり「あっちも揚げ物」
難波「お待たせしましたご賞味ください」
蒲生「これはまた豪快な!ではいただきます」
有栖「鶏のから揚げですか、京都あたりではラーメンのお供として珍しくない組み合わせです」
福花「流石は有栖さんです。これは京都のラーメン・唐揚げセットや、」
福花「中華料理の排骨麺をヒントに難波が考案したんです」
白坂「唐揚げは生姜が効いていて富山ブラックばりにニンニクがたっぷりと効かしてある」
ゆとり「それだけじゃありません。この唐揚げの衣って」
芹沢「麺よ細かく刻んた麺を衣に使ってある」
難波「その通りです麺を蒸して水分を抜いたものを衣として利用しました」
蒲生「衣が剥がれてスープが濁らないための工夫、良いアイディアですね」
有栖「味も生姜にニンニクとシンプルながら食欲を掻き立てるガツンとくる味、言わばボリューム系ラーメンの王道です」
難波「ありがとうございます」