何処かの公道
難波「天下の公道で何しけた顔して突っ立っとんねん。」
ゆとり「難波さん。 あっ 間違えた。」
難波「なんや 違ったって。」
ゆとり「この間のコンペで私にボロ負けした難波さん。どうして この人と一緒にいるんですか?」
難波「わざわざ言い直してくれて ありがとう。」
ゆとり「痛い 痛い 痛い! いった~!」
難波「私がどこで 誰とおろうが私の勝手や。まぁ さっき清流房の様子も見てきて閑古鳥鳴いとったのは最高に笑えたけどな。」
ゆとり「悪趣味…。この安本って人のせいで うちは大変なんですから。」
安本「ずいぶんな言い草だね。誰かが栄えれば 誰かが衰えるのが商売の宿命だ。清流企画のコンサルで行列を作った店にすぐそばに潰れた店だって あったかもしれないだろ?」
ゆとり「それは…。」
安本「今度は清流房にその順番が回ってきたというだけの話さ。あとは こちらの味惑コーポレーションさんと手を組んでトドメをさせば終わりだよ。」
ゆとり「難波さん まさかたかじの依頼を?」
難波「安本代表 うちは まだ正式に依頼をお引き受けするとは決めたわけではないので第三者に口外されては困ります。」
安本「失礼」
ゆとり「どうしてですか?どうして そこまで芹沢社長を目の敵にするんですか。」
安本「気に食わないからだよ。利益を追求をしようとせず 理想にしがみついて あげく パートナーだった僕を あっさり切り捨てた。」
安本「その判断が間違いだったって思い知らせてやるのさ。今さら鮎に煮干しをやめたとしても 値下げ勝負なら資本力のあるバックがついてる うちにはかなわない。」
ゆとり「あなたには 芹沢社長が鮎の煮干しを使ったラーメンにかけてきた情熱が理解できないんですか?」
安本「うまいラーメンだよ。ただ それだけさ。」
難波「なんや いろいろ こじらせとる男やな。」
清流企画
夏川「待ってたわよ汐見。」
ゆとり「夏川先輩 他のみんなは?」
夏川「社長と部長は 各支店の見回り。それより さっさとこっち来て。悔しいけど アンタが 一番頼りになるんだから。」
芹沢と河上
河上「このままでは全店閉店ということに なりかねません。基本的な味はうちのほうが勝ってるんです。一時的にでも 値下げをして客足を取り戻したほうが。」
芹沢「私が考えてる対抗策 そっちじゃないわよ 河上さん。ただ 踏ん切りがつかなくてね。」
河上「それは… まさか例の?」
芹沢「賭けの要素も強いでしょ?私だって 怖いのよ。あの時から いいものなら売れるなんてナイーブな考え方 捨てたのよ。だから余計に 自分の作ったラーメン また お客様に受け入れてもらえなくなるんじゃって思うと どうしようもなくね。」
河上「社長…。」
清流企画 調理室
ゆとり「あっ 社長。」
芹沢「何してるの あなたたち。」
夏川「たかじに対抗するための方法を考えてたんです。うちの看板 濃口醤油らあめんを改良できないかって。」
河上「濃口の改良? それは…。」
芹沢「鮎の煮干しをやめて 価格競争しようって話?」
ゆとり「いえ 鮎の煮干しの旨味と風味を最大限に高めて たかじには真似できないラーメンを作ろうって話です。」
白坂「社長の職人としてのこだわりを無視するようなこと 俺たちがするわけないじゃないですか。」
須田「そうですよ まあ理想は鮎の要素は高めつつ 煮干しの使用率を減らして 原価率を下げられる方向ですけど。」
夏川「うちにケンカ売ったこと 逆恨みのパクリ野郎に後悔させてやりましょう 社長。」
ゆとり「それから…これも。」
河上「汐見さん…。」
芹沢「何これ。」
ゆとり「今の危機を乗りきったら 私 会社を辞めて母のところへ戻ります。私が 跡を継ぐ代わりにフードサミットのラーメン部門は絶対になくさないように頼みますから。」
芹沢「あなたね…。」
ゆとり「別に料理教室の校長の席に収まってもラーメンとお別れするわけじゃないですし。それよりも私は世界中の人たちに芹沢社長のラーメンを食べてもらいたいんです。」
芹沢「バカバカしい。あなたたちの やってること 考えてること 何もかも無駄よ 無駄。」
ゆとり「無駄って…。」
芹沢「汐見 私に橋爪ようこをワクワクさせるラーメン 作れないとでも思ってるの?自分を犠牲にして私を助けようだなんて100万年早いのよ。」
ゆとり「でも 相手は意地悪大魔王ですよ。それに今の状況じゃ…。」
芹沢「あなたたちも そうよ。鮎の煮干しの風味を最大限まで高めた 濃口醤油らあめん。 私が今まで 考えてこなかったわけがないでしょ!」
夏川「えっ? それじゃ…。」
白坂「もうレシピができてるってことですか?」
須田「だったら なんで今まで…。」
芹沢「説明は あと。とにかく あなたたちのおかげで 吹っ切れたから それだけは礼を言っておくわ。」
河上「社長 では…・」
芹沢「勝負は 1週間後。その日から… 反撃に転じるわよ!」
味惑コーポレーション
難波「社長 らあめん清流房が臨時休業に入ったらしいです。」
福花「たかじに 追い込まれてるってことか?」
難波「こちらが例の調査報告書です。」
福花「なるほどな。」
難波「清流企画を潰すのは やっぱり うちの役目ですね。」
橋爪クッキングスクール
橋爪「もしもし。」
ゆとり「お母さん? 約束してたワクワクさせるラーメン。準備ができたから 明日食べにきて。」
橋爪「へ~っ お店が臨時休業に入ったって聞いたから いよいよ追い込まれたかと思ったけど。」
ゆとり「芹沢社長が作った すごいラーメンだよ。これを食べたら きっとお母さんも ラーメンが好きになる。」
ゆとり「私 これからも ずっとラーメン業界で…。清流企画で働いていくから。」
清流房のページを確認する橋爪
橋爪「新メニュー濃口醤油らあめん・解」
濃口醤油らあめん たかじ
安本「ここにきて 値上げだと?」
下平「ええ。ラオタやフリークもネットで騒ぎだして 濃口醤油らあめん・解 とんでもない勢いでバズってます。」
安本「なんなんだ?その『解』っていうのは。」
下平「7年前 清流房がデパートの創作ラーメンフェアに参加したときに大好評だったラーメンらしいです。」
安本「大好評?」
下平「はい。フェアの開催が 3日間だったため 食べられなかったフリークも多く 伝説のラーメンになってたようで。」
安本「芹沢…。こんな隠し球を用意してたなんて。」
下平「でも 1000円ですよ?いくら うまくたって この辺に立地で その値段は…。」
1週間後
レポーター「わぁ…すごい行列ですね。ご覧ください。この季節はずれの雪の中この大行列!伝説のラーメン 濃口醤油らあめん・解 を食べようと 恐ろしい勢いでお客さんが押し寄せています。」
安本「まさか ここまでとは…。」
下平「逆に うちの店はガラガラです。他の支店でも全部。」
安本「クソッ…。」
有栖「うわ~っ… これは休憩になるまでは入れませんね。」
安本「アンタは?」
有栖「お久しぶりです 安本さん。よかったら ご一緒しませんか? 伝説の醤油らあめん・解を食べに。」