清流房
芹沢「汐見 上がるわよ。」
ゆとり「はい。」
ゆとり「濃口醤油らあめん・解 お待たせしました。」
有栖「じゃ いただきます!」
橋爪「いただきます。」
有栖「これは… うわさに たがわずというか 聞きしに勝るというか…。」
亮二「アハハ… 全部 食べちゃったよ ようこさん。 ハハハハ…。」
有栖「このラーメン 今までの 濃口醤油らあめんと違って 濃縮された鮎の風味と旨味が 強烈に打ち出されている。」
安本「まさか…ダシだけではなく醤油ダレにも鮎を?」
芹沢「そのとおり。骨を抜いた鮎の身と 腹ワタ丸ごとすり潰してから醤油とみりんで煮て 1週間寝かせた鮎醤油ダレ。」
ゆとり「この1週間は醤油ダレの熟成期間だったんです。」
橋爪「工夫は それだけじゃないわ。香味油は…蓼油ね。これは 鮎の塩焼きに添えられる 蓼酢からの着想。」
橋爪「すべてを鮎まわりでまとめながら 鮎の煮干しダシの複雑さ 鮎ダレの濃厚さ 蓼油の鮮烈さを緻密に構成して 一本調子にならない 立体的な味わいを生み出してる。」
有栖「味もさることながら 盛り上げ方も見事です。フリークたちが抱いていた 伝説のラーメンのイメージを利用して ネットで反響を呼び 更に1000円の壁を突破させる 大胆なイメージ戦略を取るとは…。」
安本「イメージ戦略? 1000円の値上げが?」
河上「値上げは 高級感の演出です。高いからには それだけの値打ちがある。そういう期待感を抱かせるために」
夏川「もちろん ラーメンなんかに1000円は高いっていう声も 根強くありますけどね。」
芹沢「ラーメンは フェイクから生まれた B級グルメ。橋爪先生がおっしゃったことは 決して 間違いではありません。それでも これだけの味を 生み出すことができるんです。」
芹沢「汐見… あなた この間 ラーメンのワクワクの正体はアンバランスだって言ってたけど…。」
ゆとり「はい。でも それは 答えに1つにでしかないと社長に言われました。」
芹沢「当たり前でしょう。アンバランスであることを目的にしたラーメンなんて あるわけないんだから。」
ゆとり「えっ?」
芹沢「アンバランスは あくまで結果。じゃあ その結果を生み出す原動力は何? 自分の個性をもっとラーメンに出したい…。もっとおいしい… もっと新しいラーメンを生み出したいっていう職人の想いでしょ?」
ゆとり「ラーメンのワクワクの正体は…。」
橋爪「フェイクから真実を生み出そうとする 探究心と情熱…。そういうことかしらね。」
ゆとり「お母さん…。」
橋爪「ワクワクするラーメンだったわ 達美ちゃん。フードサミットのラーメン部門も… よろしくね。」
芹沢「ありがとうございます。」
亮二「ゆとり やったな!」
有栖「じゃあ 僕も…。 あっ! やっぱり あと1杯… あと3杯だけ おかわりを。」
河上「だめですよ。 このあとの営業に差し支えますから。」
有栖「明日も来ます。」
安本「ラーメンへの情熱か… 気に食わないな まったく。 確かに すごいラーメンだ。 それは認めるよ。だからって 商売の決着が ついたわけじゃない。」
安本「世の中には 味より 安さがいちばんって客も たくさんいるんだからね。」
清流房女性スタッフ「社長!事務所のほうに 味惑コーポレーションの方がいらっしゃってるんですが…。」
安本「フッ…。ほ~ら うちの救世主のご登場だ。」
清流企画の事務所
難波「先日の麺獄グループさんのご依頼 我が社といたしましては 謹んで お断りさせていただくことに決定いたしました。」
安本「断る? いったい どうして!?」
難波「そりゃ 金を取りっぱぐれると困りますから。清流企画さんも もう きっちり調べあげてるんと違います?」
白坂「確かに… 少し調べたら すぐにわかりましたよ。麺獄グループの実情は。」
須田「ブームに飛びついて一時的に繁盛はしても すぐ 苦しくなって また 新しいブームに飛びつくの繰り返し。」
難波「そういうわけで 打倒 芹沢達美は いずれ 我が社のほうで 成し遂げますんで…。」
安本「待ってくれ! あと少しで 清流房は潰せるんだ!おたくが 手を貸してさえすれば きっと…。」
芹沢「無理よ。自分の力で新しい味を創造できない あなたに うちを潰すなんて 絶対にね。」
河上「オリジナリティの欠如 それが敗因でしょう。君は確かに味覚も 調理センスも優れていた。」
河上「しかし それは すでに存在するラーメンを模倣したり改良する才能です。1から新しい味を 作りだす才能ではなかった。」
夏川「だから 濃口醤油の味も うちと そっくりにして 月替わりラーメンも味惑に頼ろうとしたんでしょ。」
ゆとり「でも 濃口醤油らあめん・解はたかじでは再現不可能です。コストの面でも 調理技術の面でも。」
ゆとり「安本さん あなたは 嫉妬してたんじゃないですか。自分が持ってない 芹沢社長ののオリジナリティと情熱に。」
安本「ああ そうだよ。だから 僕は芹沢達美を否定したかった。君のこだわりを否定して 勝ちたいと思ってた。だから あのときも 今回も…。」
芹沢「知ってたわ そんなこと。だから 私は あなたに再起を図る道を残したの。あなたが 自分の才能と短所に向き合ったまま ラーメン作りを続けてほしいと思ったから。」
安本「いいさ 月替わりなんて必要ない。うちのラーメンは 700円。1000円のラーメンとはすみ分けができるんだ。勝負は まだついてない!」
芹沢「勝負は もうついてるの。このあと カタクチイワシを使った 濃厚煮干し麺 700円を投入して残りの客も根こそぎ取り返す予定だから。」
安本「えっ?」
芹沢「10年前のあなたの提案やっと実現させてあげられるわ。あなたが作るより安く ずっとおいしくね。」
安本「ちょ… 達美さん いくらなんでも それは…。」
芹沢「あいにくだけど 別れた男にかける情けはあっても 敵に回った男にかける情けなんて 持ち合わせてないのよ。 私は。」
難波「怖っ。」
ゆとり「怖いです。」
夏川「味方でよかった。」
その後
河上「濃口醤油らあめん たかじは 全店舗が撤退しました。本店 支店ともに 売り上げも戻ってきましたよ。」
夏川「よっしゃ~!ざまあみろだわ!大勝利よ 大勝利!」
白坂「終わってみたらあっけなかったっすね。」
須田「出資してた会社から切られたのがトドメだったらしい。うちに絡まず 別の場所に開店してたら もう少し長続きしてたかもしれないのにな。」
ゆとり「社長 勝負に勝ったのに うれしそうじゃないですね。」
芹沢「あなたたちが はしゃぎすぎ。今回 勝てたからって 次回勝てる保証はないのよ。」
芹沢「今日行列ができてても 明日は 閑古鳥が鳴いてるかもしれない。それはどのお店も同じ。潰れて消えていく店は明日の自分たちの姿かもしれない。みんな 肝に銘じておいて。」
一同「はい!」
芹沢「フードサミットの会場設営の下見に行くから あなたも ついてきなさい 汐見。」
ゆとり「行きます! いってきます!」
夏川「いってらっしゃい。」
道中
ゆとり「社長 私 1つ 思いついたことがあるんです。」
芹沢「なに?」
ゆとり「フードサミットが開催される3週間はラーメンは全部日替わりで提供しませんか?アイディアは もう山のようにあるんです。」
ゆとり「もちろん 仕込みとか 材料費とか 現実的な面でクリアしなきゃいけないことも あるんですけど でも それが うまくいったら 」
ゆとり「今度は 清流房の新しい支店で365日 毎日 日替わりで ラーメンを出すんです!難しいですかね やっぱり?」
芹沢「汐見 それ…。ワクワクるすわね。」
ゆとり「はい! ワクワクします!」
芹沢「詳しく話詰めましょう ラーメン屋で。」
ゆとり「はい!」
ゆとり「ラーメン ラブ!」
お疲れ様です。