喫茶・サーカス
(ドアが開く音)
マスター「いらっしゃいませ。」
重子「和彦。」
和彦「コーヒー お願いします。」
マスター「かしこまりました。」
和彦「今度 鶴見に来てくれないか。 まずは 僕が 今 どんなふうに暮らしてるか 母さんに 知ってもらいたい。 暢子も 同じ下宿に住んでる。 沖縄料理屋の2階なんだ。」
重子「あのお嬢さんにも 沖縄にも 興味ありません。」
和彦「あの時 父さんと 一緒に 沖縄に行っていなかったら 今の僕は 全く別の生き方をしていたと思う。」
重子「どういう意味?」
和彦「沖縄で 暢子たちに出会って 東京では 味わえなかった生活を 全然 違う生き方を知ることができた。 それまで知らなかった父さんの姿も 知ることができた。」
和彦「僕は 沖縄で 何度も 海を眺める父さんの背中を見た。 2人で いつまでも海を眺めて 大きな強い自然の姿に 何度も感動した。 父さんと過ごした沖縄は 僕にとって特別な場所。 だから 母さんにも もっと知って…」
重子「あなたは お父さんとの思い出を 美化しているだけ。」
和彦「母さんだって 父さんとの間に 美しい思い出もあるでしょ? 愛情を感じた時期も きっと…。」
重子「愛情なんてなかった。 最初から 最後まで。 あの人は 私のことを 世間知らずな女だと見下していた。」
重子「ろくに電車にも乗れず 物の値段も知らず 家事もできない女だと バカにしてた。 学問に夢中になると ほかのものが見えなくなって 家のことも 私のことも後回し。 沖縄の研究ばかりに熱を上げて…。」
和彦「そんなに 父さんのことを 悪く言わないでくれ。 その詩集は 父さんから もらったものでしょ?」
重子「どうだったかしら。」
重子「砂川 智っていう青年と あのお嬢さんを 奪い合ったんですって? 同じ村の出身で 幼なじみなら釣り合う。 あなたと あのお嬢さんでは 住む世界が違うの。」
和彦「家の格や 釣り合いだけが 全てなの?」
重子「一時の気まぐれで 人生を棒に振るの?」
和彦「母さんと向き合って 話し合うために来た。 だけど…。 暢子は 諦めないって言ってる。 僕も 諦めない。」
和彦「母さんと もっと話したいし 母さんに 暢子のことを 好きなってもらいたい。 鶴見には 必ず来てほしい。 日曜の夕方 暢子が ごちそうを作って待ってる。」
(ドアの開閉音)
比嘉家
♬~(三線)
歌子♬『てぃんさぐぬ花や 爪先に染みてぃ』
(三線の音)
歌子「智ニーニー!」
智「歌子。」
歌子「アハッ ハハッ…。」
歌子「東京の商売も順調で やんばるの家族も みんな元気なら 上等さぁねぇ。」
智「うん…。 聞いてるか 暢子とのこと。 和彦と 結婚するんだよな?」
歌子「うん…。」
智「完璧に 振られた~。 みっともなくて しばらく 誰にも会いたくなかった。 でも 何でか 歌子には ちゃんと 自分から言いたいなって思って。」
智「あれから ずっと考えてる。 何で 俺じゃなかったのか。 俺の どこが駄目だったのかな~って。 …って 一番惨めな気持ちを言ったら スッキリした! 歌子のおかげヤサ!」
歌子「うちは いつでも 智ニーニーの味方だから。」
智「ありがとう。」
歌子「うん。」
智「歌子 最近 体調は?」
歌子「ハハッ 相変わらず。 実は 沖縄民謡を習い始めて。」
智「今 練習してたやつか? 結構 いい線いってたヤセー。」
歌子「一人の時は いいんだけど 人前に出たら うまく歌えなくて。」
智「大丈夫! 上手に歌えるようになるよ。」
歌子「フフッ…。 ねえ 一緒に売店に行かない? お母ちゃんも 会いたがってたから。」
智「いや だけど…。」
歌子「行こう!」
智「ちょっ 歌子… 待てって…。」
山原村共同売店
智「歌子 やっぱり…。」
歌子「ほら 智ニーニー 行くよ!」
善一「智! ハイサイ! 帰ってたのか。」
智「ハイサイ。 おばさん あの…。」
優子「お帰り。 会えて うれしいさ。」
智「すいません 必ず幸せにするとか 大口たたいておきながら…。」
優子「うちは 智のことが心配だったさぁ。」
智「俺のこと? 俺は 大丈夫ですよ。」
優子「うちたちと会うのは 嫌じゃない?」
智「まさか。」
優子「本当? 無理してない?」
智「本当です。」
優子「なら 上等。 もし 嫌でなかったら やんばるに帰ってきたら 必ず 顔を出さないと。 うちたちは みんな 智の顔 見られれば それだけで うれしいんだから。」
智「おばさんには かなわんヤッサー…。」
新垣「アイ 智? お帰り!」
安室「アイ! あっ…。 デージ男前になって!」
智「おばぁたちも 相変わらず チュラカーギーやんやー!」
新垣「アイヤー 口も上手になってから これね!」
優子「東京に行って 更に 格好よくなったよね。」
安室「ハンサムヤッサー。 ハンサムヤッサー」
智「ちょっと…!」