良子「兄の説明では 分かりにくいと思いますけど 本当に 家族思いで 優しい妹なんです。」
賢秀「分かりにくいって 何が? お前こそ 暢子には もっと 褒めるとこがあるだろ!」
良子「黙ってて! 急に出てこないわけさ。」
賢秀「長男に命令するな! 大体お前は…。」
良子「命令しないと…。」
重子「きょうだいゲンカは…。」
賢秀「昔から 偉そうで! とにかく 暢子のためには こんな おばさんでも 披露宴に来てもらわんと。」
重子「こんな おばさん?」
賢秀「俺たちの母ちゃん 披露宴で琉装するのを 楽しみにしてるんです。」
良子「違う。 琉装するのは暢子。 お母ちゃんは 琉装しない。」
重子「りゅうそうって?」
賢秀「アリ あの…。 琉球の着物の こんなして派手な…。」
重子「住む世界が違いますから 牛飼いのあなたとは。」
賢秀「牛飼いじゃない!」
良子「暢子は 悩んでます。 滅多に悩まない のんきな子なのに 真剣に デージ悩んでるんです。」
重子「何を?」
良子「自分と結婚することによって 和彦君が 不幸に なってしますんじゃないかって。 自分のことより 人の幸せを心配する 本当に優しい子なんです。 デージ悩んでるくせに お母ちゃんに心配かけないために なんとかしようと頑張ってるんです。」
重子「つまり ここに来たのは お母様の差し金?」
賢秀「違う!」
良子「違います!」
重子「お母様の差し金なのね。」
良子「母は そんな人じゃありません! うちは 何を言われてもいいし ニーニーのことは もっと 何を言われてもいいけど お母ちゃんを悪く言うのだけは 絶対に 許さん!」
賢秀「お前 どなるな!」
良子「どなってない…。」
重子「失礼しました。 じゃあ 暢子さん? 牛飼いのお兄さんも 暢子さんに頼まれて?」
賢秀「勝手に来たんだのに 勝手に! 見たら分かるだろ。」
重子「見ても分からないわよ!」
良子「私も兄も 誰からも頼まれていません。 大体 誰も兄に こんな大事なこと 頼んだりしません!」
賢秀「見たら分かるだろ!」
重子「それは 何となく。」
賢秀「さっきから聞いてれば 何か? 住む世界が違うとか おばさんには いちゃりばちょーでーの心がないわけ?」
重子「いちゃ りば?」
良子「『一度 会ったら みんなきょうだい』という意味で沖縄の言葉『いちゃりばちょーでー』です。」
重子「もう 結構です。 お姉さんも 牛飼いのお兄さんも お引き取りください。」
賢秀「頼むよ おばさん。」
重子「あっ…。」
賢秀「俺は もう さんざん ガキの頃から家族に迷惑かけてきた。 この上 また 俺のせいで 暢子が結婚できないとかなったら 俺は もう 豆腐の角に 頭をぶつけて 死ぬしかないわけ! 暢子を ちゃんと見てやってちょうだい。 あいつの どこが気に食わない? 俺の 大事な 大事な 大事な 大事な 妹だわけよ!」
重子「あのですね 牛飼いのお兄さん…。」
賢秀「牛じゃない! 牛じゃなくて 豚! 豚ヤサ!」
重子「豚!?」
良子「豚?」
賢秀「間て そんな話は どうでもいい。 今は 暢子の話!」
波子「では お約束ですので そろそろ。」
良子「お邪魔しました。 行くよ。」
賢秀「俺は 牛じゃないから。」
良子「牛って 何ね?」
賢秀「知らん!」
良子「オルゴール壊したの誰ね?」
賢秀「いきなり土下座とか ありえん!」
(ドアの開閉音)
波子「お帰りになられました。 ちゃんと 約束どおりに。」
重子「母親の顔が 見てみたいわ。」
波子「披露宴でお会いになれるのでは。」
(ドアの閉まる音)