エントランス
(ドアの音)
野本「あ 春日さん おかえりなさい。」
春日「野本さんも 今お帰りですか。」
野本「うん。」
エレベーター
野本「春日さん…。」
春日「野本さん…。」
野本「あ ごめん 何?」
春日「あ いえ 明日 駅前のスーパーで 鶏肉が安いみたいです。」
野本「あっ そうなんだ。」
春日「はい。 まとめ買いして冷凍しても いいかもしれないですね。」
野本「ほんとだね。 いいこと聞いた~。」
廊下
春日「では。」
野本「あ うん じゃあ。」
野本宅
タブレット『ドーナツって あの』。 『そう あの』。 『え~』。 『なんでも 今 若い人を中心に 再流行しているそうで こちらのお店も 開店から数時間で完売してしまうほど 大人気だそうです』。 『どんなドーナツなんだろう』。 『揚げたてで~す!』。 『わあ すご~い!』。 『出来たてのドーナツです』。 『おいしそう。 じゃあ 早速…』。
春日宅
ベランダ
(ノック)
南雲「こんばんは。」
春日「え どうしたんですか。」
南雲「あっ ずっとベランダに いらっしゃるなと。」
春日「あんまり乗り出すと 危ないですよ。」
南雲「あ はい。 寒くないですか?」
春日「寒いですね。」
南雲「そうですよね…。」
春日「南雲さんは ご家族と仲がいいんですか?」
南雲「え?」
春日「食材を送ってきてくれていたり…。」
南雲「う~ん 仲がいいというか 何というか 私のことが心配なんだと思います。」
春日「そうなんですか。」
南雲「会社辞めたことも知ってるから。 ちゃんと食べてるの? 大丈夫なの? って。 うちって 昔から たくさん食べるのが偉いし 食べてれば健康 みたいな教育の家だったんです。 だけど いつも親が期待するほど 食べられなかったから。 とにかく 私に食べてほしいんですよね。 それがむしろ 私には しんどくて。」
春日「そうですか。 私は逆でしたね。」
南雲「え?」
春日「うちは 弟が長男だからって 何かと優先されていて 弟より おかずを減らされたり 私にとって 十分に食べさせてもらえなかったので。」
南雲「そうなんですか。」