テレビ局
『岩手こっちゃこいテレビ』撮影スタジオ
テレビ・司会者「ひと言 お願いします。」
鈴鹿「岩手こっちゃこいテレビを ご覧の皆さん ご機嫌いかがですか? 女優の鈴鹿ひろ美です。 映画『猫に育てられた犬』実はを元にした 感動的なストーリーです。」
鈴鹿「今回は 主人公の母親を演じた訳ですが フフッ 演技じゃなくて 泣いちゃいました。 猫の気持ちも 犬の気持ちも 分かるんです。 だから 1度目は 猫の気持ちで見て頂いて 2度目は 犬の気持ちで 3度目は 人間の気持ちで 見てほしいなって。」
モニター
鈴鹿『犬に育てられた猫』。
鈴鹿「うん? あ… じゃない。 フフッ。『猫に育てられた猫』。『人に育てられた』。」
AD「カット!」
鈴鹿「天野さ~ん。」
アキ「はい!」
廊下
鈴鹿「何よ あの司会者! まだ5分も残ってるのに『最後に ひと言』って どういう事!? あんな つまんない映画の宣伝 5分もできません!」
アキ「えっ!? つまんないんですか?」
鈴鹿「最悪よ! 猫の気持ちも 犬の気持ちも 分かんない! 猫アレルギーだもん! 実はを元にすりゃ ヒットすると思ったら 大間違いよ! 現実なんて退屈!」
無頼鮨
鈴鹿「(ため息)あ~あ… もう最近 母親役ばっかりだよ。」
アキ「やりだぐねえのか?」
鈴鹿「だって つまんないじゃん ドラマの中の母親ってさ。 肝っ玉か 良妻賢母で ちょっと病気がち? 2パターンしかない訳。 それって 男の勝手な願望じゃない。 開店前のすし屋で 飲んだくれてる お母さんとか 絶対 出てこない訳でしょ? ねえ 大将!」
梅頭「そうかもしれないです。 アキちゃん! お刺身。」
アキ「あ…。」
鈴鹿「ねえ 天野さんのお母さんって どんな人?」
アキ「じぇ!」
鈴鹿「肝っ玉? 病弱? どっちのパターン?」
<い… 言えねえ。 あんたの影武者で『潮騒のメモリー』歌ってたなんて>
鈴鹿「ねえ どんな人?」
アキ「…。」
鈴鹿「ごめん。 聞いちゃ まずかった?」
アキ「歌が…! 歌がうめえ お母さんです。」
鈴鹿「へえ~ そうなの!」
アキ「はい! 歌がうめくて かっけえ母ちゃんです。 今は 地元で スナックやってます。」
鈴鹿「海女さんじゃないのね。」
アキ「海女は 祖母です。 母は 海女になるのが嫌で 東京さ出て か… 歌手を目指してた時期もあります。」
鈴鹿「ああ そうなの。 じゃあ あ母さんに 夢を託されて 来たのね。」
アキ「え?」
鈴鹿「フフッ そうでしょ? 自分の果たせなかった夢を 娘に かなえてほしいのよ お母さん。 頑張んなきゃね!」
アキ「は… はい。」
<そうか 考えもしねかったが 確かに そうだ。 そしたら なして 最初は あんなに反対したんだ?>
回想
アキ「おら アイドルになりでえ! 歌って 踊って 潜って ウニ取って 上がって 食わせる そんな アイドルになりでえ!」
回想終了