喫茶店 竹
音「はあ… 疲れた。 あそこの婦人会の班長さん すごい迫力で。」
恵「熱心な人っているわよね。」
音「私は なじめないかな…。」
保「し~っ。 外で そんなこと話したら駄目だって。」
恵「婦人会を敵に回したら怖いからね。」
音「裕一さんも ラジオの仕事で忙しいみたいだし お国のためってことは 分かってるんですけどね。」
保「まあ これでも食べて 一息入れてよ。」
音「何ですか? これ。」
保「里芋のババロア。」
音「里芋!?」
恵「今ね 代用品での デザートの研究をしているの。」
音「へえ~! 頂きます。 ふ~ん。」
保「どう?」
音「悪くはないですけど デザートっていうより… おかず?」
保「うん… だよな。」
音「発想は… 発想はいいと思います! 発想は!」
保「あ~ じゃあさ もう一個作ったのを 食べてみてくれない?」
音「えっ?」
保「里芋のツルを使った かりんとうなんだけど…。」
音「あっ いや それは また今度…。」
保「そう言わず 一口だけでも。」
音「いや 本当に。」
保「いやいや 大丈夫 大丈夫。 おいしいから。」
音「いやいや。」
保「おいしいの。」
音「ううん…。」
保「手に入る材料がどんどん減ってきてるから 知恵を絞るしかないんだよね。」
音「少し前まで普通だったことが 普通じゃなくなっていますもんね。」
保「どう?」
恵「うん ひとかじり。」
保「ちょっと…。 ちょっと…。」
恵「ちょっと…。 うん かわいいでしょう?」
保「ちょっとだけ。」
恵「かわいいと思うの。」
保「うん…。」
古山家
音の音楽教室
華「弘哉君 お教室 来ないのかな?」
音「来ないのかな?」
(走ってくる足音)
弘哉「遅くなりました! 教練が長引いてしまって。」
このころは国民学校でも 軍事教練が義務づけられていました。
音「そんな急がなくてもよかったのに。」
弘哉「でも 音先生が心配するかと思って。 さあ やりましょう。」
居間
裕一「気を遣ってた?」
音「ええ。 弘哉君 全員が教室をやめたら 私が悲しむと思って 忙しいのに 無理して通ってくれてたみたい。」
裕一「うん… そっか。」
音「だから これからは 気が向いた時に 来てくれればいいよって言っておいた。 まあ… 教練も忙しそうだし。」
裕一「うん…。」
華「優しいんだよね~ 弘哉君って。 そういうとこ好き。」
裕一「えっ?」
華「弘哉君が来なくなったら さみしいな。」
裕一「こな… ちょっと 華?」
華「うん?」
裕一「うん? えっ それ… ど… どういう意味?」
トキコ「ごめんください。」
裕一「はい…。 えっ? 今 好きって… 好き…? は~い。」