乾物屋
布美枝「こんにちは!」
和枝「すごい荷物 どうしたの?」
布美枝「ちょっと お貸して下さい。」
和枝「どうぞ。」
布美枝「あと 買う物は 干しシイタケとイリコと…。 あ… せっけん忘れた。」
和枝「えっ… まだ買うの?」
布美枝「人が増えたもんですけん ちり紙でも せっけんでも すぐに なくなってしまって。」
和枝「人 使うのも ご苦労だね。 みんなの食事 布美枝ちゃんが 作ってんの?」
布美枝「夜食をたまに。 店屋物ばかりだと 飽きてしまうので。」
和枝「まあ 商売繁盛で 何よりだ。 稼いでもらわなきゃ困るもんねえ。 家 直すのだって 随分 お金かかったでしょう?」
布美枝「はい。 やっと 一息つけると思ったら また節約で。 これ 下さい。」
和枝「毎度どうも。 ねえ この荷物 ここ置いときなよ。 後で うちの亭主に 車で運ばせるからさ。」
布美枝「いや シイタケ買ったぐらいで そんな。」
和枝「いいってば。 大事にしなきゃ ダメな時でしょう?」
布美枝「すいません。 ほんなら お言葉に甘えて。」
和枝「布美枝ちゃんち 遠いからねえ。 お腹が大きいうちは 自転車も乗れなくて大変だ。」
布美枝「そうなんです。」
和枝「あっ! 車 買ったらどう? 買い物 便利になるよ。」
布美枝「いや… でも私 運転できませんし。」
和枝「取ったらいいじゃない。 免許くらい。 今は 3Cの時代なんだからさ。」
布美枝「あ… カー!」
和枝「クーラー!」
布美枝「カラーテレビ! うちは 一つも 持っとらん。」
和枝「こっちも 商売用のカーしかない。 お互い 遅れてるね。 まあ 車は ともかく 誰か頼んどいた方がいいよ。 赤ちゃん 生まれるっていうのに 1人じゃ どうにも なんないでしょう。」
布美枝「そうですねえ。」
<臨月が近づいたら 姉の暁子に応援を頼もうかと 布美枝も 考えていたところでした。 ところが…>
飯田家
源兵衛「おい 見てみ! なかなか 立派になっちょ~わ。 改築して がいに住みやすくなったげな。 お腹の子も順調だと書いちょ~ぞ。」
ミヤコ「お父さん。 私 東京行ってもええでしょうか?」
源兵衛「え?」
ミヤコ「藍子も まだ小さく この上 赤ん坊が生まれるのでは 布美枝1人では どげだいなりませんがね。」
源兵衛「いや 『心配いらん』と 書いて よこしちょ~ぞ。 それに 東京には 暁子もろうだねか。」
ミヤコ「けど 暁子から電話があって 塚本さんの仕事の都合で しばらく 東京を離れる 言っとりました。」
源兵衛「何だ 間が悪いのう。」
ミヤコ「人を頼むと言っても 布美枝の気性では かえって気を遣って 苦労するかもしれんですけんね。 (ため息) ここ一番いう時ですけん やっぱり 母親の私が 東京へ行って…。 」
源兵衛「お前が行って どげする。 布美枝の足手まといにな~わ!」
ミヤコ「いや けど…。」
源兵衛「よし! 決めた。 わしに 考えがある。」
ミヤコ「お父さん?」
<源兵衛に 妙案が ひらめいたようです>