連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第122話「戦争と楽園」

水木家

休憩室

菅井「どうぞ。 先生 今 散歩に出てるんで ちょっと 待ってて下さい。」

冴子「散歩って やっぱり お墓を巡るんですか?」

菅井「そうですね。 うちの先生 一風 変わってますから。 どうぞ どうぞ!」

冴子「ユニークですよね。 お人柄も 漫画も。 私 初めて原画を拝見した時 点描画のようで 驚きました。」

菅井「それなんですよ! うちの先生 点々には ものすごい こだわりがありまして 点々には 実に厳しいんです。アシスタントになりたての頃は 僕も ひたすら 点々ばかり 打たされて…。 今も あんまり 変わってないな。」

冴子「菅井さんは こちらに何年?」

菅井「恥ずかしながら 6年です。」

冴子「それじゃ 先生の漫画 ずっと 支えてこられたんですね。」

菅井「まあ そうかな。」

修平「茂は おらんか?」

菅井「あ! また来た。」

冴子「お邪魔してます。」

修平「おや 松川さん 来とったのかね。」

菅井「白々しいな。」

修平「原稿の受け取りですか?」

冴子「グラビアの打ち合わせです。 夏の特大号に 『怪奇大特集』を お願いしようと思いまして。」

修平「『怪奇大特集』ねえ。 昔は 化け猫映画なんていうのが 随分ありましたよ。」

菅井「あ!」

冴子「見た事あります。 入江たか子ですよね。」

修平「それは 戦後のものですな。 戦前は 鈴木澄子の主演で 大当たりしました。」

冴子「へえ~ 古いもんなんですね。」

修平「もともとは 芝居にある話なんです。 芝居には 怪談物が ようけありますぞ。」

冴子「お岩さんとか?」

修平「『四谷(よつや)怪談』 『牡丹灯籠(ぼたんどうろう)』 『真景累ヶ淵(しんけいかさねがふち)』に 『怪談乳房榎』。」

冴子「お詳しいんですね。」

修平「知識人にとって これくらいは 教養のうちですな。 ハハハハハ!」

菅井「あの お父さん。」

修平「え? あんた 忙しいんだろ? ここは 任せて 早こと 仕事に戻りなさい! ほら! 仕事 仕事! ほれ! 書きました?」

冴子「『四谷怪談』…。」

修平「『牡丹灯籠』。」

冴子「どうやって 書きます?」

修平「ちょっと 貸してごらん。 『牡丹灯籠』…。」

小学校

教室

智美「今日は ありがとう。 助かっちゃった。」

藍子「ありがとう。」

留美子「3人の秘密だよ。 あのね それより 村井さんに お願いがあるんだ。」

藍子「何?」

留美子「私 テレビに出たいな。」

藍子「え?」

留美子「『ゲゲゲの鬼太郎』のテレビ漫画。 流美子っていう女の子 出してもらえない?」

藍子「え?」

留美子「鬼太郎と一緒に 妖怪退治する役とかで。 お願い! お父さんに 描いてくれるように 頼んで!」

藍子「えっ… でも それは。」

女子「留美ちゃん 帰ろうよ。」

留美子「ちょっと 待ってて! ねえ いいでしょう?」

藍子「聞いてはみるけど…。」

留美子「やった!」

藍子「え?」

留美子「テレビに映ったら あれ 私が モデルだよって みんなに 自慢しちゃおう!」

藍子「待って。 聞いてみるだけだよ。 私 仕事のこと 分かんないし。」

女子達「留美ちゃん 行くよ 早く。」

留美子「村井さんが頼んでくれたら きっと 大丈夫だよ。 じゃあね ありがとう。 バイバイ! ごめん ごめん お待たせ! 行こ 行こ!」

水木家

休憩室

修平「『首が飛んでも 動いてみせるわ』。」

冴子「お父さん お上手!」

修平「いや! ハハハ!」

茂「あれ? イトツ。」

修平「お前の代わりに お相手しとったぞ。」

冴子「いろいろ 教えて頂きました。」

修平「あなた 頭の回転が速い。 教えがいのある。 ハハハハハ!」

布美枝「あら! お父さんも こちらに?」

修平「そろそろ 退散するところだ。 仕事の邪魔は してはいけん!」

冴子「先生 豊川から 言づかってきました。 『お願いしている書き下ろしの方は いかがですか』って。」

茂「ああ いや あっちは まだ…。」

布美枝「また 豊川さんと お仕事ですか?」

茂「ああ 書き下ろしの単行本だ。」

冴子「私も拝読しました。 先生が以前 お描きになった 『敗走記』。 ぜひ 加筆して 単行本にして下さい。」

茂「ええ。」

冴子「豊川は 『できれば 夏の間に』と 申しておりました。」

茂「いや それは 無理ですな。」

(風鈴の音)

茂「あれは すぐにという訳には いかんものです。 時間がかかります。 そう伝えて下さい。」

冴子「分かりました。」

修平「『敗走記』か…。」

冴子「一度 ご覧 頂けますか?」

茂「うん。」

<茂の いつになく強い口調が 布美枝には 少し不思議な気がしました>

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