玄関前
絹代「あ~。」
藍子「どうしようかなあ。 断ればよかったな。」
絹代「お帰り。 藍子!」
藍子「あ… おばあちゃん。」
絹代「ぼんやり歩いとったら 車に ひかれ~よ! どげしたかね?」
藍子「ううん 何でもない。」
台所
布美枝「『敗走記』か…。 私 読んどらんだったなあ…。」
藍子「お母ちゃん!」
布美枝「あ びっくりした。 あんた いつの間に?」
藍子「『ただいま』って言ったよ。」
布美枝「そう?」
藍子「手伝おうか?」
布美枝「あら 珍しい事 言って。 ほんなら そこのレタス ちぎってくれる?」
藍子「うん。」
布美枝「ああ! 分かったぞ。」
藍子「え?」
布美枝「友達の誕生会のプレゼント買うお小遣い もう なくなったんでしょ?」
藍子「え? ああ… うん。」
布美枝「やっぱり そうか。 お駄賃は 藍子の働きしだいかな!」
藍子「ねえ お母ちゃん。」
布美枝「ん?」
藍子「お父ちゃんに頼んだら テレビに 出られるかな?」
布美枝「どういう事?」
藍子「友達がね 『鬼太郎』のテレビ漫画に 自分を モデルにした女の子を 出してほしいって言うの。」
布美枝「え?」
藍子「お父ちゃんに言ったら テレビの人に 頼んでもらえるかな? お母ちゃんから 聞いてみてよ。」
布美枝「あんた 何 言っとるの! お母ちゃん そげな事 言えんよ。 お父ちゃんの仕事には 口は 出せんけんねえ。」
藍子「うん。 うん そうだよね。」
布美枝「約束でもしたの?」
藍子「ううん 違うよ。 してない。 ちょっと 聞いただけだよ。 分かった もういいの。」
絹代「布美枝さん 回覧板 来とるよ!」
布美枝「は~い! ほんとに ええのね?」
藍子「うん。」
布美枝「お父ちゃんに 変な事 頼んじゃダメよ。」
藍子「うん 分かってる。」
絹代「布美枝さん!」
布美枝「は~い! うん。」
茂の仕事部屋
布美枝「お父ちゃん 夜食。」
茂「ああ そこ 置いといてくれ。」
布美枝「何 読んどるんですか?」
茂「うん これだ。」
布美枝「『敗走記』…。」