布美枝「ええ ご縁でありますように。」
源兵衛「布美枝! 布美枝! 何をもたもたしちょ~だ。 じき 見合い相手が来るんだぞ! 布美枝!」
布美枝「はい!」
源兵衛「何をもたもたしちょ~だ! もういっぺん 言っとくぞ。 先方の一行が到着しなったら わしらが 座敷に案内するけん。」
布美枝「はい。」
源兵衛「お前は 台所で抹茶をたてて 襖の前で控えちょれ。」
布美枝「はい。」
源兵衛「よきところで わしが 『ゴホン』と せきばらいをする。 それを合図に 座敷に入って わしの 横に座れ。」
布美枝「はい。」
源兵衛「ええな。」
ミヤコ「来られたようです。」
源兵衛「来たか?! お見えにならっしゃったぞ~! 用意は ええか!」
ミヤコ「お父さん。」
源兵衛「うん。」
布美枝「どげしよう。 ドキドキしてきた。」
玄関前
絹代「しげさん 昨日決めた合図 忘れとらんでしょうね?」
茂「ああ。」
絹代「進めて よければ 吸い物を飲む。 どうにも いけん時は 手をつけない。 ええね?」
茂「暗号まで こしらえて ますます 芝居がかっちょう!」
修平「『母さんの ここには シナリオが 出来上がっとる』と言っただろう。」
絹代「こうしとると なかなか 男前なんだけどねぇ。 しげさん 気張っていかっしゃいよ!」
修平「まあまあ そう力まんで 自然体でいったら よかろう。」
絹代「えんや 今日は しくじれません。 39にもなって 嫁がおらんでは 茂さんの人生 お先 真っ暗ですが!」
茂「酒屋かあ。 ふ~ん。 えらい クラシックな家だなあ。『座敷童』か『あずきはかり』でも 住み着いとりそうだ。」
谷岡「ああ 村井さん 村井さん!」
絹代「あっ。」
谷岡「これは どうも。」
絹代「今日は お世話になります。」
台所
源兵衛「遠いとこ わざわざ。 どうぞ…。」
谷岡「今日は 冷えますな。」
邦子「皆さん おいでましたよ! フミちゃん 落ち着くだが!」
布美枝「ど ど どげしよう。 私 口から 心臓 飛び出しそうだわ。 私…。」
客間
谷岡「こちらが お話しちょ~ました 村井 茂君ですわ。 ご両親の村井修平さん 絹代さん。 修平さんは 境港で 英語の塾を開いちょられます。 こちらは 布美枝さんのご両親で 飯田源兵衛さんと ミヤコさんです。 酒屋のかたわら 2期目の安来市 市会議員を務めちょられますけん。」
台所
邦子「フミちゃん! もっと 力抜いて。」
布美枝「あっ はあ… はい。」
客間
源兵衛「我が家は 代々 源兵衛を 名乗っちょ~まして わしで 4代目になります。」
修平「それは 古風ですな。 ご襲名は お幾つの時で?」
源兵衛「はい。 父が 早こと亡くなりまして 10歳の時に 源兵衛を名乗りました。」
修平「ほうほう。」
源兵衛「年寄りくさい名前ですけん 友達に からかわれて よう けんかしたもんですわ。」
修平「ハハハ 茂も 小さい頃は けんかばっかしとって 『将来 ろくな大人に ならんだろう」と 随分 案じましたわ。」
(絹代のせきばらい)
回想
源兵衛「お前は 襖の前で控えちょれ。」
布美枝「はい。」
源兵衛「よきところで わしが『ゴホン』と せきばらいをする。 ええな!」
回想終了