道中
運転手「奥さん ここが 丸の内です。」
布美枝「うわ~! ビルが いっぱいある。」
運転手「先に見えるのが 皇居です。」
布美枝「は~! ほんに東京なんだわあ! あの 東京タワーは どの辺りにあるんでしょうか?」
茂「ちっと 方角が違いますなあ。」
運転手「あ 回りましょうか?」
茂「いや 今日は 急いどるんで。 また 今度で ええですね。」
布美枝「あ はい。 私 こげな町に暮らすんだわ! は~!」
茂「うちは もっと ず~っと 奥の方ですけどねえ。」
運転手「私 調布の方は 余り走らないもので 近くになったら 道を教えて下さい。」
茂「はいはい。 しかし 車は ええもんですなあ。 道を歩いとる人より ちっと 偉くなった気がしますわ。」
運転手「これから どんどん増えますよ。 3年後の東京オリンピックに向けて 道路の整備も 進んでますからね。 調布の方も 随分 便利になったでしょう?」
茂「いやいや うちの方は まだまだ のどかなもので。」
運転手「ああ 武蔵野の面影を残す ですか? 風流ですなあ。」
茂「風流というのとは ちょっと違うかなあ。」
布美枝♬『楽し都 恋の都 夢のパラダイスよ 花の東京 楽し都 恋の都』
<ピカピカの車に乗って 東京の 真ん中を走り抜けていく。 夢のような出来事に 布美枝は 晴れがましい気持ちで いっぱいでした>
<ところが…>
運転手「まだ 先ですか?」
茂「もうすぐです。」
<華やかな都心を走り抜けると 車は どんどん 郊外に向かっていきました>
布美枝「東京にも こげに畑があるんですね?」
運転手「あ~っ!」
(急ブレーキ)
運転手「すいません!」
(牛の鳴き声)
茂「もう この先です。」
村井(水木)家
布美枝「あの~ ここですか?」
茂「ええ ここです。」
(カラスの鳴き声)
<それは 大変なボロ家でした>
布美枝「ここ? 嘘でしょ…。」