東京駅
布美枝「いっぱい 人がおりますね!」
茂「この程度は 少ない方ですよ まだ 朝が早いですけん。」
布美枝「大塚で こげに人がいるのは 祭りの時くらいです。」
茂「東京は 毎日が祭りですわ。 あ もう 小一時間すれば ラッシュですけん。」
布美枝「ラッシュ?」
茂「そう。 電車に 荷物のごとく 人を詰め込むんです。 詰め込みすぎて 時には けが人も出ます。」
布美枝「えっ?」
茂「骨が折れたり 息が詰まったり。」
布美枝「怖い…。」
茂「ま 朝っぱらから 人々が 一斉に 行動を開始するというのが そもそも 間違っておるんですな。」
浦木「お~い! ゲゲ。」
茂「あ いけん イタチが来た。」
布美枝「えっ! あ あの!」
浦木「あ 奥さん! 奥さん! おや 奥さん 随分 すらりとされてますね! おい 薄情な奴だな 置いてくなよ。」
茂「お前 これから どこに行くんだ?」
浦木「ん? ひとまず 日暮里の知り合いに 訪ねようと思っとる。」
茂「ああ なら 調布とは 方向が違う。 じゃあ。」
浦木「おい おい! 親友同士が 久しぶりに 再会したんだ コーヒーの1杯ぐらい。」
茂「俺は急いどる。 早く行きましょう。」
布美枝「あ はい!」
浦木「コーヒーの1杯ぐらい おごって くれてもいいじゃないか! おい! ちょっと 待てって!(叫ぶ声)」
布美枝「ええんですか?」
茂「振り向いては いけません。 目が合うと 追ってきます。」
運転手「村井さん! 村井さんでしょう? ちょっと お待ち下さい! なぜ逃げるんです? 村井さん! 村井布美枝さんでしょう? 村井布美枝さんですよね?」
布美枝「布美枝ですが?」
運転手「あ~ やっぱりそうか! 私 お迎えに参りました。」
<東京に住んでいる姉の暁子が 夫の会社の車を 回してくれていました>
茂「ええ車ですな~。」
布美枝「姉から 何も聞いとらんで すいませんでした。」
運転手「いやいや お姉さん お向かいに いらっしゃる おつもりが 急な ご都合で 来られなくなったそうですよ。」
布美枝「そげですか…。 でも よう 分かりましたね? 私達の事。」
運転手「はい。 『背が高いから すぐ分かる』と伺って… おっと! ハハハ! あ…。 どうぞ こちらに。」
布美枝「あ…。」
運転手「お姉様からの ご結婚の祝いです。」
布美枝「うわ~っ! きれい! これ 出窓に置いたら どげでしょう?」
茂「出窓?」
布美枝「写真で見ましたけん これ 置いたら すてきだが。」
茂「出窓? 出窓ねえ…。」
浦木「ゲゲ!」
布美枝「キャッ!」
浦木「あ~ すげえ車だなあ! 俺も乗せてくれ! な!」
運転手「お知り合いでした ご一緒に。」
茂「いえ まったく 知らん人です。 さ 行きましょう! 行きましょう!」
運転手「はい。」
茂「急いで 早く!」
浦木「お~い! なんて薄情な! ふ~ん それにしてもゲゲの奴 案外いい暮らし してやがんな。」