連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第35話「アシスタント一年生」

回想

富田「印刷部数は 元のとおり 2,500. いや2,000でいいか。 また返品 食らったら 大惨事だ。」

茂「はあ。」

富田「もう戦記物も つらいね。 伸びしろがないわ。」

茂「富田さん。 何度も くどいようですが 『墓場鬼太郎』をやりませんか? もう一度 描かせてもらえんですか? 自分は ずっと考えとるんです。 あれは まだまだ面白くなる。」

富田「水木さん あんた あれ ほんとに いけると思うの? 今は 若大将映画が人気の時代よ。 清く正しく さわやかなストーリーが 受けてんのよ。 今更 あの因果物みたいな 暗い話を」

茂「いや だからこそ 怪奇物がええんです。 高度成長の浮かれ気分 能天気な明るさ。 それだけでゃ 薄っぺらだ。 闇 不思議 恐怖 そういうのが 逆に求められるんです。」

富田「うん。 それじゃ やってみて。」

茂「ですから この前の反省を生かしてですね 表紙は もう少しソフトに しかし 内容は もっと濃く。 えっ?! 今 何て言いました?」

富田「だから そんなに言うんだったら もう一遍 やってみてちょうだい。 『鬼太郎』の続き 一冊 出してみようじゃないの。 怪奇短編集って事でね 『妖奇伝』は ゲンが悪いから 本のタイトルは そのまま 『墓場鬼太郎』でいいよ。 内容は任せる。 で それが ダメだったら おしまい。 分かるね? ラストチャンス。」

茂「はい。」

富田「それでさ 一応 見せておくけど 今頃になって こんなのが来てんのよ。 全然 反響ないよりは まだ 可能性あるんじゃない?」

回想終了

布美枝「ほんなら 『墓場鬼太郎』が復活するんですか!」

茂「読者からの手紙で救われた。 あれがなかったら また 鼻で笑われて 断られとったかもしれん。」

布美枝「よかったですね!」

茂「こんな分厚い手紙が来とったよ。 しかし 見ず知らずの人が よくまあ 時間と切手代をかけて 『鬼太郎』の助命嘆願なんぞを 書いてくれたもんだな。 読者に神が差したとしか思えんな。」

布美枝「神が差した?」

茂「ああ 『魔が差す』と言うだろ。 まあ それの反対だな。 神が差すと 人は 知らず知らずのうちに 人助けなど してしまうのかもしれん。 お陰で 俺も『鬼太郎』も助かった。」

布美枝「そげですね。」

茂「あ! こうしては おられん。 ええもんを描かねばならん。 神が差した読者の気持ちに 応えんとな。」

布美枝「はい!」

茂「晩飯まで 声は かけんでくれ。」

布美枝「はい。 あ! 『好機の到来』。 やった!」

<一度は 打ち切れた 『鬼太郎』が こうして 奇跡の復活を遂げたのです>

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