連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第39話「消えた紙芝居」

回想

音松「この間のは 受けませんねえ。」

茂「うわ…。 すみません。」

音松「困りました。 次は 必ず 当てましょう。」

茂「はい。」

音松「ここは ひとつ 派手な西部劇とかさ ああ 空想科学物なんて どうです?」

茂「どちらも もう… 厳しいです。」

音松「諦めたら いけません! 粘れば 必ず なんとかなります。 頑張りましょう。」

茂「はい。 …親方。」

音松「ん?」

茂「怪奇物で もっと迫力のあるのは やれんもんでしょうか?」

音松「はあ~ 怪奇物か…。」

茂「はい。 自分は 西部劇や 空想科学物より 怖い話を描いとる方が がぜん 力が湧くんですが…。」

音松「確かに 水木さんの怪奇物は いい味が ありますからなあ。」

茂「長続きする怪奇物は ないかと 考えておるのですが…。」

(手を叩く音)

音松「そうだ! 『飴屋の幽霊』って怪談 知ってますか?」

茂「『飴屋の幽霊』…?」

音松「うん。」

茂「確か 女の幽霊が 毎晩 飴を買いに来るので 後をつけてみたら 墓の中で 赤ん坊が生まれてた。 そげな話ですよね。」

音松「あらららら。 そうです。 『子育て幽霊』とも言う。 ハハハ。 戦争前ね… あの怪談を基にした 紙芝居が はやったんですよ。 『墓場鬼太郎』っていうんですがね。」

茂「どんな話ですか?」

音松「さあ…。 幽霊の子供の話 という事ぐらいしか…。 何しろ 古い物で …現物が残ってませんからねえ。」

茂「幽霊の子供の話か…。」

音松「ええ。」

茂「キタロー… 墓場で生まれた子供! …これは 面白いぞ!」

回想終了

布美枝「へ~っ。 ほんなら… 『墓場鬼太郎』は 最初 紙芝居で描いとったんですか?」

茂「ああ そげだ。」

音松「あれは 受けましたなあ。」

茂「ええ。 100巻ぐらい… いや もっと描いたかなあ。 鬼太郎とは 長い つきあいだ。」

布美枝「紙芝居の鬼太郎か… 見てみたいです!」

茂「もう 何も残っとらんよ。」

布美枝「え?」

茂「紙芝居は 手書きの一点限り 現品しかない。 全国を回って ボロボロになるまで 使われて 古くなったら 捨てられて おしまいだ!」

布美枝「残念です。 どげなふうだったのかな…? 紙芝居の鬼太郎。」

(手を叩く音)

音松「ちょっとだけ 見せましょうか?」

布美枝「え? あ~ 紙芝居の舞台!」」

音松「道具一式です。 はいっ!」

茂 布美枝「あ~!」

茂「鬼太郎ではないですか!」

布美枝「残っとったんですね!」

音松「実は これ 表紙っきり! 本体は なし。」

茂「はあ~ 懐かしいなあ!」

布美枝「これが 最初の鬼太郎か…。」

茂「空手の回だ こりゃ! ハハハ。」

布美枝「かわいい!」

音松「実は 今… 紙芝居の新しい団体 作ろうと 動いているとこなんですよ。」

茂「ほう。」

音松「やっと設立のメドが立ちましてね。 …今度 東京へ来たのも その打ち合わせで…。」

茂「ほう~ それは よかったですなあ。」

音松「『紙芝居は 時代遅れだ。 廃れてしまった』 という人も おりますが 私は まだまだ 諦めてませんよ。 このまま 紙芝居の火を 消す訳には いきません! これだって… ほら! 1巻 丸ごと 残ってる物も あるんですから… ハハハ。」

茂「久しぶりに 聞かせてください。 『音松の名調子』。」

音松「ええっ?!」

布美枝「お願いします!」

音松「そうですか? じゃあ ちょっと さわりだけ。」

(ちゃぶだいを叩く音)

音松「『お願いです! お金は 必ず 返します。 布団だけは! どうか 布団だけは 持っていかないで下さい! おっかさんは 病気なんです。 布団を持っていかれては おっかさんが死んでしまいます』。 『しゃらくせえ! 小僧 すっ込んでろい!』 悪漢どもが 布団を持ち去ろうとした その時!」。

(太鼓の音)

音松『このまま 朽ち果ててなるものか たとえ 母は おらずとも たとえ 墓場で生まれようとも…』。

<茂の紙芝居も 音松が こんな名調子で 語っていたのだろうかと…。 想像を巡らせてみる 布美枝でした>

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