布美枝「え?」
貴司「『貧乏しとるようで かわいそうだ』って お母さん 心配しとったぞ。」
布美枝「ああ…。 あんただから 話すけど うち 質札が こんなに たまっとるのよ。」
貴司「えっ? 質札?」
布美枝「質入れした物が 流れんように しょっちゅう 出したり入れたり。 何度も 食糧危機に陥ったし 鼻紙が切れて買えんだった事も 電気が止められた事も あったんだよ。」
貴司「へえ~! そげん もうからんのか? 姉ちゃん よう 文句も言わんで やっとるな。」
布美枝「言っても しかたないもん。 うちの人 漫画 描いて生きるって 決めとるけんね。 一日中 夢中で描いとるよ。 貧乏はしとるけど 好きな事に 打ち込んど~けん しかたないわ。 私も うちの人には 漫画を描いとって ほしいけんね。」
貴司「そげか。」
布美枝「あんたは 酒屋で ええの?」
貴司「え?」
布美枝「酒屋 継ぐ事 一番大事と思っとるの? 何があっても 一番大事なことは 諦めたらいけん。 私 うちの人 見とったら そげ思うわ。 あんたもな もし 店の事よりも あの人の方が…。
貴司「俺は 村井さんとは 違う!」
貴司「ヘヘヘ! ずっと ここで暮らし 酒屋やりながら 30まできたんだ。 今更 商売 ほうり出して 好き勝手する訳には いかん。」
(小鳥の鳴き声)
居間
邦子「フミちゃん 今日は 藍子ちゃん 連れて 境港にお出かけですねえ。」
布美枝「うん 行ってくるわ。」
ミヤコ「今日は あっちに泊まるの?」
布美枝「戻ってくるつもりだけど。」
哲也「境港じゃ 藍子が来るのを てぐすね引いて待っとるらしいぞ。 幽閉されんように 気をつけろ! ハハハハ!」
布美枝「まさか ねえ!」
いずみ「ごちそうさまでした。 学校 行ってきます。」
台所
ミヤコ「困ったねえ。 せっかく あんたが帰ってきたのに こげな事になって ごめんね。」
布美枝「ううん。」
ミヤコ「いずみの事は ともかく 貴司の事は 相手がある事だけん このままにしておけんね。 お父さん 誰の意見も聞かずに 何でも 話 進めてしまうけん。 (ため息)」
村井家
居間
絹代「はい 藍子 こっちにおいで ハハハ! ようやっと しげさんの子供を 抱けたわ。」
修平「どれ! わしにも抱かせろ! 」
絹代「丈夫に育っとる? 病気はしとらん?」
布美枝「はい めったに 風邪もひかんし よう食べるし よう寝るし 手のかからん子です。」
絹代「しげさんの子供の頃と 同じだわ。 ねえ お父さん。」
修平「こっち よこせ。」
絹代「顔も よう しげさんと似とる。」
布美枝「みんなに 言われます。」
藍子「ちいちゃ~い!」
絹代「ちいちゃ~い。 しげさんより ず~っと賢いな! あの子は 4つまで ちっとも しゃべらんだったのよ。」
布美枝「そげですか?」
絹代「う~ん。 フッ ハハハハ! 最初にしゃべったのが 『ねんこんババ』。」
布美枝「えっ?」
修平「猫のふんと言ったんだ。」
布美枝「はあ…。」
絹代「自分の粗相を 猫のふんのせいにして ごまかそうとしたんだがね。」
布美枝「あら!」
絹代「あの子は あの頃から ちょっこし 変わっとりましたねえ お父さん。」
修平「ええから! 早とこ わしに抱かせ!」
絹代「もう 大きな声 出して! 嫌でちゅねえ~。」
知人1「ごめんくださ~い!」
知人2「しげさんの子は 来ちょ~かね?」
絹代「は~い! お父さんが 言って歩くけん 近所の人が 藍子 見に来たんだわ。 は~い! 藍子 来ちょ~ますよ!」
修平「もう… う~ん!」