連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」第94話「来るべき時が来た」

戌井「『テレビくん』は いいなあ。 この とぼけた表情が 何とも かわいい。」

茂「なかなか 評判も ええそうだ。」

戌井「ああ でしょうねえ。」

浦木「よっ。」

戌井「あ…!」

浦木「う~ん ゲゲの漫画にしちゃ 確かに まともな方だ。 が…。 やっぱり 浮いとるなあ お前の漫画だけ。」

浦木「ああ 少しくらい 評判が いいからって 調子に乗んなよ。 週刊誌に 『墓場鬼太郎』を 描くなんて バカなまねは よせ!」

茂「お前には関係ない。」

浦木「バカ! 俺は友情で言ってるんだ。 『週刊少年ランド』の恐怖の人気投票の 仕組み 知らんのか?」

布美枝「恐怖って  どういう意味ですか?」

浦木「あれは 首切りの 順番待ちのようなものでしてね。 毎号 一番からビリまで 順番が出るんです。 3回 連続して 最下位をとると すぐにクビ! 打ち切りです。」

布美枝「打ち切り…。」

浦木「お前の『鬼太郎』は あまりの不気味さに 飯が ノドを通らなくなり 子供が熱を出すという代物だぞ。 しかも 貸本どころか 紙芝居のにおいさえ漂う カビ臭~い漫画だ。」

浦木「墓場の話が 今の子供に受ける訳がない。 名?連続最下位は 目に見えとるなあ! こんな簡単な理屈が なぜ 分からんかねえ。」

戌井「あなた…。 相変わらず 失礼な人だなあ!」

浦木「え?」

戌井「こんな時代だからこそ 『鬼太郎』が求められてると 僕は 思うなあ。」

浦木「おいおい 若大将 おかしな事を言いだすなよ。 あ?」

戌井「あなたに言っても 分かって もらえないと思いますけども 子供は みんな 怖いものや 不思議な世界が大好きですよ。 何もかも明るくなってしまった 今だからこそ 『鬼太郎』の闇の力が 子供達を引き付けるんです。」

茂「闇の力か…。」

戌井「それに僕は 『鬼太郎』に 奇跡的な生命力のようなものを 感じますね。 紙芝居に始まって 『妖奇伝』 『鬼太郎夜話』…。 毎回 消えかかっては そのつど 復活してる。 『鬼太郎』は 不死身です!」

布美枝「不死身か…。」

茂「お化けは死なんけんな。」

戌井「はい! 水木さん 『鬼太郎』の新作に 全力で当たって下さい! うちの幻想ロマンシリーズは 後回しで かまいませんから。」

茂「しかし そんな事したら あんたのとこが困るじゃないか。」

戌井「こっちは なんとかなります。 今は『鬼太郎』に集中して下さい!」

布美枝「戌井さん…。」

浦木「やれやれ 道理の分からん奴ばかりだ…。」

<ところが…>

雄玄社

少年ランド編集部

高畑「編集長 また載せんですか? 『墓場の鬼太郎』。」

福田「2回とも人気投票は 圧倒的に 最下位ですよ。」

北村「販売部からも 『少年ランド』のカラーに合わないと 苦情が来てます。 書店の評判も よくないそうで。」

高畑「大体 鬼太郎ってのは 何者なのかねえ? チャンチャンコ着て 下駄履きなんて 幾らなんでも 古くさい。」

福田「正義の味方って ご面相でもないしね。」

梶谷「俺なんかは 面白く読んでるけど 子供達には なじみにくいのかもしれないな。」

水木家

居間

浦木「だから言わんこっちゃない。 広告局に 顔 出したついでに ゲゲの漫画の反応を 探ってきましたが 『墓場の鬼太郎』は 第1回目も この第2回目も アンケートの結果は 最下位ですよ!」

布美枝「最下位ですか…?」

浦木「ええ ビリです どんじりです。 よく そんな のんきに ぼたもちなんか 作っていられますねえ。」

布美枝「あ 秋のお彼岸ですけん…。」

浦木「はあ…。 あいつは どこ行っとらるんです?」

布美枝「散歩を兼ねて 近くの墓場に。」

浦木「墓場?!」

布美枝「『鬼太郎』で墓場を描くので。」

浦木「まだ懲りずに そんなものを…。 ボツになりますよ。 こう人気がなくちゃ 『3回目は ボツになるだろう』と もっぱらの評判です。」

布美枝「そんな…。」

<期待に反して 『墓場の鬼太郎』の人気は さっぱりだったのです>

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