町中
(泣き声)
「急げ 急げ!」
「早く!」
「邪魔 邪魔!」
(泣き声)
村岡家
居間
花子「さあ 明るくなるわよ。 顔 見えるね。」
「二郎! 無事だったんだね!?」
「タキ… おいで! 大丈夫だったか? 火を消していて 迎えに来るのが 遅くなっちまって…。 お世話になりました。」
花子「いえ とんでもないです。」
(余震)
「うわっ!」
「怖い!」
「怖いよ~!」
花子「大丈夫よ。 大丈夫よ。」
「怖いよ~!」
花子「大丈夫よ! 大丈夫。 大丈夫よ。」
花子「そうだ! 何か 面白いお話をしましょうか。 どんなお話がいいかしら。 そうね…。 『ナミダさん』というお話は どうかしら。」
<花子は 子どもたちを力づけたい一心で 必死に想像の翼を広げ こんなお話を作りました。>
花子「『昔 ある所に あんまり泣くので ナミダという名を付けられた 小さい娘がありました。 何か思うようにならなければ ナミダさんは 泣きました』。 『ある朝 学校へ行く道で 例のとおりに 泣いておりますと…』。 今日は ナミダさんは どうして泣いてたと思う?」
フミ「学校に行きたくなかったから?」
花子「そう! 『そこへ カエルが一匹 ひょっこり飛び出してきました。 ナミダさんは カエルに言いました。 『何だって 私についてくるよ?』。 すると カエルは 『なぜかって言われたら もうじき お嬢さんの周りに 涙の池が出来るだろうと 思いましてね』』。」
花子「英治さん…。」
英治「みんな… 無事でよかった…。」
歩「パパ。」
平祐「無事だったか!」
花子「英治さん お帰りなさい。 心配したのよ…。」
英治「帰ってくる途中 そこいら中 火の海で この世のものとは思えない 光景だった…。」
平祐「郁弥は? 会えたのか!?」
英治「いえ…。 かよさんは?」
花子「でも 郁弥さん かよさんに 求婚するって言ってたじゃない。 きっと かよと一緒に どこかに避難してるのよ。」
平祐「会社は?」
英治「建物は 全壊しました…。 無事だった社員を帰したあと 郁弥とかよさんを捜しに カフェー ドミンゴに 行ってみたんだけど… 火事があちこちで起こっていて 捜すのは諦めて帰ってきたんだ…。 もう一度 行ってくる。」