もも「知らせる余裕がなくて…。」
蓮子「北海道で 偶然 はなちゃんの ラジオ放送を聞いたんですって。 お姉さんの声を聞いたら 居ても立っても いられなくなって 嫁ぎ先のおうちを 飛び出してきたそうよ。」
花子「どうして 蓮様のとこに?」
蓮子「私が書いた記事が 雑誌に出て以来 苦しい境遇に身を置く女性が 何人も訪ねていらっしゃるの。」
英治「ああ…。 『女性も 自らの人生を生きてよい』 という あの記事ですか。」
蓮子「ええ。 北海道からの船の中で ももちゃんも うわさを聞いたらしくて。 ねっ? ももちゃん。」
もも「記事を書いた作家の先生の お宅に行けば ごはんも食べさせてもらって 泊めてもらえるって聞いて。 まさか… お姉やんの友達の 蓮子さんとは思わなかった…。」
花子「とにかく 元気でよかった。 会えてよかった。」
英治「ももさん。 よければ このうちに泊まって下さい。」
もも「いや でも…。」
英治「仕事関係の方たちや 近所の子どもたちも 大勢集まってきたり にぎやかなうちですけど いつまでも いたいだけ いて下さい。」
花子「ええ。 是非 そうして。」
蓮子「よかったわね。 ももちゃん。」
もも「ご迷惑をおかけしますが よろしくお願いします。 お願いします。」
玄関前
花子「蓮様… ももの事 ありがとう。」
蓮子「ううん。」
花子「はあ… もも… 昔は いっつも にこにこ笑ってたのに…。」
蓮子「ももちゃん あまり話したがらないけれど 北海道での暮らしは 相当 過酷だったようよ。 子どもがいなかった事もあって ご主人が亡くなってからは 親族の方たちから あまり いい扱いを 受けていなかったようで…。」
花子「ももが逃げ出すほど つらい思いしてたのに 私 ちっとも 気付いてやれなくて…。 手紙の返事もないのも きっと忙しいからだろうって 思って…。 もっと早く 気付いてやればよかった。」
蓮子「はなちゃん。」
花子「私… もものために 何をしてやれるのかしら。」
居間
もも「おらの暮らしとは 全然違う…。」
JOAK東京放送局
応接室
(ドアが開く音)
花子「あっ… 皆様 ごきげんよう。」
漆原「どうも。 『コドモの新聞』大変結構だと 局長も褒めてましたよ。」