畑
リン「おまんとこの婿さん 西洋かぶれで おかしくなっちまっただけ。 ここんとこ 町の教会に 入り浸っちょるだってね。」
ふじ「あら~ よ~く知っちょりますねえ。」
リン「あら~ 私を誰だと思ってるでえ。」
吉太郎「村一番の おしゃべりばばあ。」
リン「あっ?」
ふじ「吉太郎! リンさん すまんねえ。」
リン「年がら年中う 仏頂面こいて 何もしゃべらん じじいより ましじゃんねえ。 ほれと はなの事だけんど。」
ふじ「はなが 何か?」
リン「あのボコは 父親に似たずら。 困ったもんじゃん。 女のボコのくせに 本や勉強が好きなんて ろくすっぽなもんにゃ ならん! 本なんか読まんように 母親のおまんが こぴっと しつけんと えれえこんになるら。」
教会
書庫
はな「てっ!」
客間
吉平「あそこは キリスト教の学校じゃから はなに早く洗礼を受けさせんと。 どういでも はなを あんぼ 修和女学校に行かせたいんです。 お願えします!」
森「(ため息) お父さんのお気持ちは 分かりましたが あんなに小さい お嬢さんを 女学校の寄宿舎に 入れるとなれば ご家族全員の 理解と応援が必要です。 よく話し合って下さい。」
吉平「はあ…。」
書庫
はな「てっ。 本じゃん。 てっ! 全部 本じゃんけ! おとう! 大変じゃん! こんなに うんとこさ 本がある!」
客間
吉平「あっ…。 ちょっと。 はな。 はな~。」
書庫
はな「おとう! この世にゃあ こんなに うんと本があっただけ。」
吉平「へえ~! ここは 大事な本ばっかしだから 入ってきちゃ…。 はな!」
はな「何でえ?」
吉平「東京の女学校へ行ったら 大好きな本が なんぼうでも読めるだぞ。」
はな「本当? どこにあるでえ?」
吉平「ふんだから 東京じゃ。 毎日 思っきし 本が読めるんじゃ。 ほういう学校に行きてえか?」
はな「うん!」
吉平「よ~し! おとうに任しとけ!」
はな「うん!」
安東家
居間
ふじ「東京の女学校? 何を夢みてえなこん 言うちょるですか。」
吉平「はなの夢を かなえてやるんじゃ。」
ふじ「うちの どこに ほんなお金があるですか?」
吉平「金は 一銭もかからん。 キリスト教の学校では 金持ちも貧乏人も平等じゃ。 貧乏人には 特別に 給費生っちゅうもんがあるんじゃ。」