もも「ほんな事があっただけ!」
朝市「あんときゃあ とんだ目に遭ったさ。」
もも「お姉やん 石盤でたたくなんて ひでえじゃんけ!」
はな「ありゃあ もとはと言えば武が悪いだよ。」
武「えっ? ほうだったかな。 おまんら2人で 廊下立たされたじゃん。」
朝市「あのあと しばらく はな 口利いてくれなんだよな。」
はな「ふんだって 朝市が本当の事言わんから。」
朝市「ほいで やっと はなと仲直りしたと思ったら 奉公行くって言いだして。」
武「朝市 おまん あん時 泣きそうな顔してたじゃん。」
朝市「てっ! ガキん時の話ずら。」
武「はなが東京の女学校行くときゃあ 本当に泣いてたら。 ハハハハ!」
朝市「武だって!」
武「ガキの時の話じゃんけ。 ほんなの覚えてねえじゃん。」
朝市「そしたら おらも覚えてねえ。」
はな「武! あ… おら ちっと御不浄に。」
武「ももちゃん もっとカステラ食えし。」
はな「武! あ… ここんちは 広いから 迷子になってしまうかも分からん。 一緒に来てくりょう。」
武「…ったく 一人で便所も行けねえだけ? はあ… 甘えん坊なやつじゃん。」
朝市「ももちゃん ほら。」
もも「ありがとう。」
朝市「うめえだ。」
もも「うめえ!」
廊下
武「おお 便所は そっちじゃねえよ。」
はな「御不浄は もういい。 おら ちっと急用を思い出した。」
武「はあ?」
はな「武 うちまで送ってくりょう。」
武「何で はなたれを 送らんきゃならんでえ?」
はな「いいから!」
武「えっ? おお… おい。 おまん おらと 二人きりになりたかっただな。 ほれで こんな茶飲み会なんか 開いただけ。」
はな「はあ?」
武「ほれなら のっけから 素直に ほう言やあいいら。 まあ おらに ほれるのは 分かるけんど 地主と小作じゃ身分が違い過ぎて 結婚は できんら。」
はな「いいから 送れし。」
武「えっ?」
客間
朝市「遅えな。」
もも「本当だね。」
朝市「あっ ほういやあ ももちゃん 北海道行く人と 縁談があるだって?」
もも「朝市さん どうすればいいと思う?」
朝市「ももちゃんなら きっと いいお嫁さんになるら。 ふんだけんど 周りに流されて 気が進まん結婚だけは しん方がいい。」
もも「朝市さんが ほう言うなら 絶対に断る。 お姉やんが おとうを説得するって 約束してくれたし。」
朝市「ほうか。 じゃあ 大丈夫だ。」
もも「うん。」
朝市「ほれにしても 遅えな。」
もも「どけえ行ったずら お姉やん。」
朝市「はなみてえなお姉やん持つと ももちゃんも大変ずら。 急に突拍子もねえ事 思いついたりするから。」