泉州繊維商業組合
(談笑)
「そうゆうたら見た? 例のサンローランの。」
糸子「見た!」
「トラペーズライン!」
糸子「ひどいでなあ あれ!」
「奇抜なだけやんな! けったいな事して 目ぇさえ引いたらええと 思てんやで。」
「21の若造が 考えそうなこっちゃ。」
「せやから あんな若い子に任せた あかんかったんや。」
糸子「21て うちの娘と 1つしか違わへん。」
「そや!」
糸子「は せやけど うちが看板あげたんも 21や。」
「いや ほんま? 21?」
糸子「うん。」
「そやかて うちらの頃の21と 今のとは ちゃうで!」
「まあな~!」
一同「う~ん。」
「何や頼んないわ~! このごろの子ぉは。」
糸子「せやなあ!」
3人「う~ん。」
(ドアの開く音)
糸子「あ お帰んなさい!」
「お帰んなさい!」
三浦「あんたら 相変わらず かしましいなあ! 表まで 声 筒抜けや!」
(笑い声)
「せや! うち こんな しゃべってる場合ちゃうかった。 はよ 帰らんと お客さん 来んじょ。」
「うちも 工場行かな あかんかった!」
糸子「うちも帰ろ!」
「ほな うちも帰るわ!」
「ほな お先に!」
「どうも お邪魔しました!」
「お先です!」
三浦「小原さん あんたも 急いてるか?」
糸子「いや うちは 今日は別に。」
三浦「あ そうか。 ちょっと残って。」
糸子「はあ。」
糸子「はあ~。 ああ 上物ですわ。」
三浦「ほうけ。」
糸子「うん。 これ 舶来物でしょ?」
「はい フランスです。」
糸子「はあ~ 高そやなあ。」
三浦「いや せやから そこはな。」
糸子「うん。」
三浦「これ 何ぼや?」
「ダブル幅の50メートル巻き 一反 1万2,000円で。」
糸子「1万2,000円! そない安いんですか?」
「いや ただし 条件があるんですわ。 10反を一括 即金で 買い取ってもらえたらというのが。」
糸子「10反? 即金? はあ~!」
三浦「無理け?」
糸子「いや~ 買えん事は ないですけど 50メートル巻き 10反。 さすがに うちは よう さばかん。 いや… どうやろな?」
三浦「いやいや。 それな 無理にという話ではないんや。 あんたとこ 1軒で さばけへん ちゅうんやったらば あれやで よその店と分けて さばいても かめへん。」
糸子「はあ。」
三浦「ただ わしとしてはや こんな上物 この値段や。 これ ごっつい目玉になると 思うんや。 うん! とりあえずな あんたに 一番に知らせちゃろ思てな。 それだけや。」
糸子「はあ。 そら おおきに。」
三浦「いやいや。」