玄関
(戸をたたく音)
糸子「へっ?!」
(戸をたたく音)
糸子「嫌!」
千代『糸子~。』
糸子「えっ?!」
(戸をたたく音)
千代『糸子 開けて~。』
(戸をたたく音)
糸子「あっ あ~ お母ちゃん?!」
千代「はあ~ 寒かったあ! う~ いや~。」
糸子「どないしたん?!」
千代「はあ~ 寒かった。」
糸子「いや~ 寒かった ねっ。」
千代「それが 夕方 引っ越しが おおかた 一段落したら お父ちゃん 途端に あんたの事が 心配になってきたみたいでなあ『糸子んとこ 行っちゃれ! 今すぐ 行っちゃれ!』って 言いだして…。」
千代「ほんまは あんたが 仕事から帰ってくんのん 迎えちゃるつもりで 出かけてきたんやけど 慣れへん道やさかい『あれ? あれ?』ちゅうて 歩いとったら 訳の分からんとこに 出てしもて… はあ~。」
糸子「あ…。」
千代「はっ はれ はれ はれ いや!」
糸子「う~ん。」
千代「いや… ご… ごめんな! 堪忍 ごめんやて。 いや これ… これかいな 看板?」
糸子「うん。 エヘヘヘ… ほら。」
千代「は~あ~! まあ ええやんかあ! 小原洋裁店… へえ~! いや~ あ~! はあ…。」
糸子「何や…。」
千代「う~ん?」
糸子「お母ちゃんの顔 見たら やっと この看板 喜んでもええ気ぃ なってきたわ。」
千代「喜びいな あんた 何ぼでも。 あんたの看板や! とうとう 小原洋裁店が できるんやで。」
糸子「うん… そやな。 そやけどな…。」
千代「ん?」
糸子「うちのせいで 家族が バラバラになってしもたんや。 お父ちゃんが ず~っと しんどかったんやて思たらな…。」
千代「あれあれあれあれ…。」
糸子「うちは… なんちゅう事 してしもたんやろ。 みんなに どないして謝ったら ええんやろと思たらな…。」
千代「アホやなあ。 そんな事 思わんでええ。 あんたは ただ 頑張ったんやし。 お父ちゃんかて 静子らかて あんたが悪いなんか ちっとも思てへん!」
ハル「あれ? 来ちゃあったんけ。」
千代「はい。」
ハル「あれ? どないしてん 糸子。」
糸子「おばあちゃん あっち行ってて!」
ハル「何や? 泣いてんけ?」
糸子「『あっち行って』て 言うてるやろ!」
<それから しばらくして ちょうど 桜が咲いた頃に>
玄関前
「気を付けてや!」
「どないや?」
「ええんちゃう?」
<うちの屋根に 小原洋裁店の看板が上がりました>