安岡家
居間
玉枝「ヒヒヒヒッ 見ちゃって 見ちゃって。」
糸子「きったない字ぃやな 相変わらず。」
(笑い声)
糸子「あれ? 何や これ?」
玉枝「ああ あの子 アホやさかいな 書いたらいかん事 書いたんやと思うねん。」
糸子「ほな 軍の人に 消されたちゅう事?」
八重子「はあ… そやろな。」
糸子「え~? けど こんな… 墨で こんなん! せっかくの葉書に!」
玉枝「まあまあ 読んじゃってよ。」
小原家
居間
糸子「ほんま あの墨 許せん…。」
勝「うん?」
<人の葉書を 勝手に塗り潰す その胸くそ悪い 墨みたいなもんは そのあとも うちらの生活を ちょっとずつ 塗り潰し始めました 初め 北支事変て呼ばれちゃった 大陸とのゴタゴタは 途中から 志那事変ちゅう呼び名に 変わって 何や知らん 政府は えらい のぼせ上がってるようでした。>
<次の年には 国家総動員法 ちゅうのが しかれて いわく『今は お国の非常時やさかい 国民は とにかく 軍に 協力せんならんど! ぜいたくすな 節約せえ。 余った分を 軍に回す。 お国の勝利のためじゃ!>
オハラ洋装店
<そのあと すぐ 綿製品非常管理ちゅうて 綿は 作るんも 売るんも 規制がかかる事になってしもて 糸へんの町 大阪は どこもかしこも てんやわんや。 新聞によると 日本は あちこちで 勝利を収めてる割に 戦争は 一向に終わる気配も のうて 先月 昭和14年7月には 国民微用令公布。>
<国民はますますの節約と 軍への協力を求められており 一方 そんな中 うちは ごっつい 調子に乗ってました>
「ハハハッ おはようさん!」
糸子「おはようさん!」
「おはようさん! 朝から 暑いな。」
糸子「なあ かなんでなあ。 よいしょ!」
「まあ まあまあ!」
「はれ~ もう パンパンやな!」
糸子「ああ かなんで この忙しいのに! ウフフフ まあ どうぞ。」
「おおきに。」
糸子「うん よいしょ。」
神田「おはようさん!」
3人「おはようさん!」
糸子「ちょっと待ってな。 静子 静子!」
静子「はい!」
糸子「神田さんのワンピース 出したげて。」
静子「はい! ええのん でけてるよ~。」
神田「いや~ うれしい!」
<政府が 戦争に 頭から 湯気立ててる一方 岸和田の女性らも 洋装ちゅう 新しいおしゃれに 湯気立ててました。 国家総動員法も 何のその。 毎日 お客さんが ひっきりなしに 洋服を作りに来て オハラ洋装店は 空前の繁盛ぶりです>
糸子「あるで ええのん。」
「ほんま?」
糸子「うん。 ちょっと待っちゃって。 あ 大山さん。『婦人美粧』今月号! また ええのん ようさん あるし 見とって。」
「おおきに。」
「どんなんにしよ?」
「こんなんが ええけどなあ。」
糸子「ああ… あっ!」
昌子「先生? 先生 大丈夫ですか?! どないしよ?」
2階 座敷
昌子「大将! 先生が…。」
勝「え?」
昌子「はよ来て!」
勝「どないしたんや?!」
昌子「はよ!」