小原家
オハラ洋裁店
勝「すんません 小原です。 あの うちのが 陣痛 始まってもて!」
昌子「2階の荷物どかして! 布団 敷いて!」
「はい!」
勝「そう 神戸 行っちゃった はずなんですけど 何か 近所で 陣痛 始まってるとこ 木之元さんが 見つけてくれて。 すぐ来て下さい! 頼んます!」
木之元「産婆さん 迎えに行こか?」
勝「すんません 頼んます!」
居間
(うめく声)
糸子「何や 優子ん時と違てな。」
静子「ん?」
糸子「おんなじ痛みが ずっと あんねん。 優子ん時は もっと どんどん どんどん強なって 早なったのにな。」
ハル「な…。」
糸子「うん?」
ハル「陣痛 いつ始まったん?」
糸子「う~ん。 2時半ごろや。」
ハル「4時間か…。」
糸子「よっぽどのゴテが 産まれてくるんやろか。」
ハル「ハハハ!」
糸子「あ~ いて…。」
(うめく声)
善作「ええこっちゃないかい これは 男が出てくるな。 そないゴテてるちゅう事は 男に決まってら。」
勝「はあ~。 ええですね。 息子かあ。」
善作「めでたいのう!」
2階 寝室
(うめく声)
居間
善作「10時か。 8時間やな。」
勝「えらい かかりますね。」
善作「あんまし かかると 子が出てくる前に 母親の方が参ってまうど。」
勝「えっ? お母さん!」
善作「な… 何や?」
千代「糸子が…。」
善作「糸子が どないしたんや?!」
千代「スルメ 持ってきてて。」
勝「ス… スルメ?」
千代「おなか すいてんのに 食べられへんさかい せめて スルメしゃぶっとくて。 かわいそうに!」
(犬のほえる声)
2階 寝室
(息む声)
(柱時計の時報)
居間
善作「わしは こうなったら 男でも女でも かめへん。 母親と子供が 無事でおってくれたら そんでええ。」
勝「僕かて産まれてさえくれたら 何でもええです。 犬の子でも 猿の子でも 何でも育てます!」
善作「そやな! 無事でおってくれたら 猿でもええな。」
2階 寝室
(息む声)
(産声)