小原家
オハラ洋装店
(ため息)
<耳の奥に 直子の泣き声が こびりついて 取れませんでした>
玄関
善作「ただいま~! 優ちゃんのお帰りやで~!」
糸子「お帰り。」
ハル「お帰り!」
善作「ほれ 優ちゃん お母ちゃんに話しちゃり。 今日は 何 見に行ったんやったかいな。」
優子「歌舞伎!」
善作「そやなあ。 そんで 優ちゃんは 誰が 気に入ったんやったかいなあ?」
優子「春太郎!」
糸子「何やて? ちょっと見せてみ!」
善作「ええ芝居やったで。 脂の乗りきった役者ちゅうのは こういう事 言うんやろな。」
糸子「お父ちゃん! 子供に 何 見せてんよ?」
善作「ああ?」
糸子「春太郎なんか 見せんといてよ!」
善作「春太郎の何が悪いで?」
居間
優子「『腹は大きな肝っ玉あ~』。」
(笑い声)
中村「優ちゃん 途中で飽きんと 最後まで見たんけ?」
優子「うん。」
中村「ふ~ん。 偉いなあ。」
昌子「中村春太郎ちゅうたら 有名なタラシやろ。」
清子「タラシかどうか知らんけど いっとき よう 雑誌 載っちゃったな。」
静子「こないだ 結婚したさかい もう タラシと ちゃうんちゃう?」
昌子「は? 役者が結婚したくらいで タラシやめへんわ。」
糸子「直子 御飯 食べてるやろか。」
<近所の預けてる時は 仕事中に思い出す事なんか いっぺんも なかったのに。 今度は 直子の事を 5秒と忘れていられません>
オハラ洋装店
昌子「先生! 先生!」
糸子「ん?」
昌子「聞いてました? 今の うちの話。」
糸子「聞いてなかった。」
昌子「もう!」
2階 仕事場
<それは 勝さんも 同じやったようで>
(ため息)
オハラ洋装店
<とうとう 3日目の夜>
糸子「どこ行くん?」
勝「直子の顔 見てくる。」
糸子「今から?」
勝「パッと 顔 見るだけや。 今夜中には 戻る。」
糸子「うちも行く。」