川本家
玄関
(吹雪の音)
糸子「直子! 直子!」
(戸をたたく音)
勝「お~い! お~い!」
(戸をたたく音)
勝「お~い! 開けてくれ!」
糸子「ひょっとして? な! これ 直子が…?」
亘「どちらさん?」
勝「俺や 勝や!」
亘「兄ちゃん? どないしたん?」
勝「ちょっとな。 直子の顔 見に来たんや。」
亘「今 ちょうど寝ついたとこや。」
勝「ほな ちょっと寝顔だけでも。」
亘「いや…。 ようやっと 直ちゃんも 慣れてきたとこや。 万が一にも 目ぇ覚まして 親の顔なんか見てしもたら『元の木阿弥』で また手ぇ つけられへんようなら…。 すまんけど 今日は このまま帰ってくれ。」
(吹雪の音)
山道
糸子「きゃっ!」
(泣き声)
<この 万年 上機嫌の人が 泣いてます 人の親んなるっちゅうんは 何や どっか哀れな事なんやなあ>
小原家
居間
静子「で 結局 昨日 何時に帰ってきたん?」
糸子「昨日ちゃう 今朝の4時や。」
昌子「何で 大将だけ ここ 霜焼け なってんやろ? 先生 どうもなってへんのに。」
勝「ふん? 何でやろな?」
<あんた だらだら 涙 流しとったからや>
オハラ洋装店
(小鳥の鳴き声)
河瀬「正真正銘 こんで売り切りや。 やあ ほんまにおおきにな あんた。 恩に着るで!」
糸子「はいはい。」
河瀬「まさか 売り切れるとは 思わんかったえけどなあ。 はあ~ こんで なんとか 年越せら。 ハハハ! よいしょっと!」
糸子「ちょっと大将!」
河瀬「え?」
糸子「また すぐ そこに お客さん 来るんやさかい 生地置いたら さっさと帰ってや。」
河瀬「ハハハ! さすが繁盛してる店は 言う事がちゃうのう!」
糸子「忙しいんや! まだそんだけの生地 大みそかまでに 服にせんならんやさかい!」
河瀬「はいはい。 ほな 失礼するわ。 ほんまにおおきにな。 おおきに!」
糸子「おおきに!」
<そっから うちは もう 夜も ほとんど寝られんと 御飯だけは しっかり食べて>
糸子「はあ~ でけた!>
山道
(鳥の鳴き声)
糸子「直ちゃん! 直ちゃん! 直子! 直子! おいで!」
勝「直子! わしも。 ちょ わしも代わってくれ!」
糸子「嫌や。」
勝「ね…。」