2階 座敷
<お父ちゃんの包帯を 替えるんは 結構 恐ろしい仕事やさかい。 鼻歌でも歌わん事には やってられませんでした>
(鼻歌)
善作「いはい! いはいよ! お前!」
糸子「堪忍 堪忍!」
寝室
<朝か? 夕方か? 誰や。 赤ん坊か? お父ちゃんか? おばあちゃんか? 絵の具を混ぜ過ぎたら 灰色になるように あんまり いろんな事があって このごろ うちの目の前も 灰色に見えます>
貞子『糸子 2階か? 起こしたら 悪いやろか?』
糸子「おばあちゃん?」
清三郎『お前 階段気ぃ付けや 腰 悪いんやからな。』
貞子「大丈夫やて よっこらしょ! うわ!」
糸子「おばあちゃん おじいちゃん!」
清三郎「うわ~!」
貞子「糸子!」
居間
一同「おいしい~!」
昌子「しゃれた味やな~! どうぞ お宅さんも 呼ばれ下さい。」
静子「ほんまや どうぞ どうぞ!」
2階 座敷
清三郎「何も心配する事ない。 いざとなったらな うちが全部 面倒 見たるから まずは しっかり治すんやで。 ええな。 ええな おい!」
(泣き声)
貞子「赤ちゃんの名前は 何て付けたん?」
糸子「それが まだなんや。」
貞子「え?」
清三郎「まだ 付けてないんか?」
糸子「優子も直子も お父ちゃんに 付けてもうたさかい この子も そないしよう 思たんやけど お父ちゃん それどころやないさかいな。」
清三郎「ほうか。」
善作「おほうはん。」
清三郎「ん? 何や?」
善作「おほうはんが ひめはっへ くらはい。」
清三郎「さっぱり分からん。」
糸子「せやなあ。」
清三郎「せやなて 糸子 今 何 言うた?」
糸子「『お父さんが 決めたって下さい』て。」
清三郎「え? わしがか? せやけど。 え… 善作君 あんたが決めたらんと。」
善作「ひへ ほほは おほうはんが。」
糸子「『いや ここは お父さんが』。」
清三郎「いや そりゃ 糸子が せっかく 今日まで待っとったんや。」
善作「はまひまへん。」
清三郎「え?」
善作「ろうか おほうはんが ひめはっへ くらはい。」
糸子「『かましません どうか お父さんが 決めたって下さい』て。」
清三郎「はあ~。」
糸子「うちも そんでええよ。」
清三郎「いやいや そやけどな そんなんで 急に 言われてもやな。」
貞子「『さとこ』て どうや?」
清三郎「え?」
千代 糸子「さとこ?」
貞子「さとこ。 糸子と 似とうやろ?」
千代「ほんまや。 一字違いやな。」
ハル「糸子より 賢そうや。」
(笑い声)
清三郎「よし 分かった。 そしたらな 聡明の聡の字で 聡子は どうや? え 聡子。 な こら 賢い子になるで。」
「あ~!」
糸子「あ~ よかった。 や~っと決まった。 聡子 おめでとう! あんた 聡子になったで。」
ハル「聡子 賢いんやって。」
<おじいちゃんらが来てくれたんは ほんまに ありがたい事でした>
善作「いはい!」
糸子「痛い?」
清三郎「すまんな。」