静子「今日な うちの…。 うちの好きな人が 戦地から 帰って来るんや。」
糸子「好きな人? あんた そんな人 いちゃあったんけ?」
静子「そら 姉ちゃん うちかて もう30なんやで。」
糸子「はあ ほうか。 そら うちが 33やもんなあ。」
静子「戦争から生きて帰ってこられたら 結婚しようて 言うてくれてな うち ず~っと待ってたん。 その人がな 今日 岸和田へ 帰って来て その足で うちに会いに来てくれるて 連絡があったんや。」
糸子「あんた 何で そんな事 今まで黙ってたんよ?」
静子「そりゃあ 申し訳のうて。」
糸子「は?」
静子「姉ちゃんは お兄さんを 亡くしてしもうたのに。」
糸子「は… アホか。」
静子「え?」
糸子「あんたな。 姉ちゃんを 何やと思てんや。 ん…。」
玄関前
<慌てて サイズを詰めたさかい ちょっと おかしなとこも あったけど ほんでも新しい服を着て 恋人を待つ静子は 見た事ないほど きれえでした>
糸子「あ 来た!」
サエ「あれや!」
(泣き声)
静子「お帰んなさい!」
サエ「ご ご ごっついな このごろの子ぉは。」
糸子「ほんま 人が見てるっちゅうに。」
<これも 新しい時代が 来たちゅう事やろか>
オハラ洋装店
客「ああ やっぱりええなあ!」
<水玉のワンピースは 思うたとおりの ごっつい反響で>
「3週間や。」
「うちも はよ頼んどいた よかった。」
昌子「せやから 今からやったら 次の次に入ってくる 生地になるんですわ。」
「ほな あそこに あんのんも もう みんな 売り切れてんけ?」
昌子「そうゆう事です。」
「しゃあないな。 けど 頼むわ。 どないしても 欲しいさかい。」
糸子「すんません うちも 生地屋の おっちゃんに はよして! て よう頼んどくよって!」
客「頼むで!」
糸子「へえ。」
昌子「また お待ちしてますよって。」
客「ほな 頼んだで。」
糸子「すんません!」
昌子「また よろしゅう頼んます!」
居間
<それから ちょっと間して 静子が お嫁に行きました>
八重子「よっしゃ でけた!」
一同「うわ~!」
糸子「よかったなあ! この花嫁衣裳も やっと 日の目 見たで。」
(笑い声)
八重子「糸ちゃん 着れんかったからなあ。」