(足音)
田中「どないしてくれんねん。」
るい「えっ?」
田中「こないだ ここに出した 背広なんやけどな ほれ ここ! ポケットに穴が開いてしもとんねん。」
るい「ええと… もっぺん お名前う教えてください。」
田中「田中やけど。」
るい「田中様。 ちょ… ちょっと待ちょってください。 田中様…。 お客様 こりゃあ 最初から開いてとった穴です。」
田中「何やと?」
るい「ご来店の時 店の者が 一緒に確認した思いますけど。 ほら こけえ 『右裾に穴あり』て。」
田中「言いがかりつけるんか?」
るい「とんでもねえ。 こねんしてメモが…。」
田中「あとから書き足したんやろが!」
るい「そんな…。」
田中「弁償せえ。 これはなあ ごっつう高かったんじゃ。 わしのお気に入りなんじゃ。 それを こないにしよって 服代だけやあれへん。 慰謝料払え 慰謝料!」
(カウンターを蹴る音)
田中「安心して夜道歩けんようにしたろか こらあ!」
(肩をつかむ音)
田中「な… 何じゃ お前は。」
片桐「あんたのしてることは 立派な恐喝です。」
田中「恐喝ぅ?」
片桐「それに カウンターを蹴る行為は 威力業務妨害罪にあたります。」
田中「言うてくれるやないか にいちゃん。 伝票に うそ書き足したんは この店の方やで。 詐欺や 詐欺! (大声で)この店は 詐欺働いとるで~! 痛い 痛い 痛い。」
片桐「その大声も威力業務妨害です。 最近 クリーニング店に言いがかりをつけて 金を脅し取る犯罪が多発してるらしい。 うちの弁護士事務所にも 相談があったんですよ。」
田中「ええわ!」
片桐「大丈夫ですか?」
るい「はい… ありがとうございました。」
片桐「よかった。 …で 出来てますか?」
るい「あっ はい。 弁護士さん なんですね。」
片桐「…の卵です。 正確には。 ハッタリだけは一人前ですけどね。」
るい「きれいに落ちましたよ。」
片桐「ホンマですか。 ありがとう。 週明け 先生のお供で裁判所に行くんで どうしても それまでにと思うて。 助かりました。 おいくらですか?」
るい「40円です。」
片桐「はい。 僕も好きです。 O・ヘンリー。 ほしたら。」
るい「はい…。 ありがとうございました。」
<真っ白な るいの世界が ほのかに色づき始めていました。 Rui s pure white world began to see a hint of color>