錠一郎「そのころ お父ちゃんとお母ちゃんは 結婚の約束をしてたけど…。 それも諦めた。 トランペットとったら何にも残らへん。 そんな自分の人生に… 大事な人 つきあわすわけにはいかへん思た。」
るい「いっぺんは別れたんや。」
ひなた「えっ…。」
錠一郎「トランペット失って。 大事な人 失って。 夢 失って…。 もう死のうかなあと思った。 そやけど… お母ちゃんが…。 るいが救ってくれた。 2人で京都に来て。 回転焼き屋さん始めて…。 それからも… お医者さんとか 治療法とか 探し続けてた。」
錠一郎「けど 桃太郎が生まれた頃からかな それも だんだん しいひんようになった。 諦めたっていうか 何か 吹っ切れたんかなあ。 もう一生 トランペットは吹かれへん。 この回転焼き屋で 仕事の役には立たへんけど ひなたと桃太郎の いいお父ちゃんとして 生きられたら それでええ。 それで 僕は幸せや。 …で 何が言いたいかっていうとやな。 それでも人生は続いていく。 そういうことや。」
(風鈴の音)
広場
桃太郎「すごいな お父ちゃん。 そんな過去があったやなんて…。 全く分からへんかった。」
ひなた「お母ちゃんかて ただの 回転焼き屋のおばちゃんやなかったんや。」
桃太郎「うん…。」
ひなた「けど よかった。 お父ちゃんが死なへんかって。」
桃太郎「うん。 その時 お母ちゃんが 止めてくれへんかったら思たら…。」
ひなた「ああ。 あっ ゾッとするわあ。」
桃太郎「うん。」
ひなた「どこ行くん?」
桃太郎「あかにし。 謝ってくる。」
ひなた「お姉ちゃんも一緒に行ったげる。」
荒物屋・あかにし
桃太郎「ごめんなさい!」
ひなた「ちょっと魔が差しただけなんです。 どうか こらえてやってください。」
吉右衛門「いいや こらえん。」
ひなた「今回だけ 見逃してやってください!」
吉右衛門「あかん言うたら あかん。」