<ニコラス・シラーは 私にとって 世界最高の映画監督だ。 初めて見た時の あの衝撃。 文芸的でオフビートなユーモア感覚。 八海サマとタッグを組んだ作品は 私の人生を変えたと言っても 過言ではない>
シラー『今日はえらく道が混んでいたよ 東京はどこも人が多いね』
ゆき『一度 朝の満員電車に乗ってみてよ この街が嫌になるから』
<っていうか ゆきさん 英語ペラペラ!>
シラー『俺も駅員に押し込められてみたいな』
ゆき『ウケる それ動画で撮りたい』
<よし 雰囲気のいい今のうちに そっと帰ろう>
シラー『この不愉快な音を今すぐ消してくれ!』
ゆき「ごめんなさい」
シラー『なんで君が謝るんだ 不愉快なのは そのテレビだ 戦争に疫病に自然災害… 世界中が危機にあるというのに 下世話なゴシップで ぎゃあぎゃあ騒いで 本当にマスコミはクレイジーだよ!』
<怒ってる? 私は どうしたらいいんでしょうか?>
シラー『今日は八海は来ないのか?』
ゆき『来てますよ。 今 お手洗い』
シラー「来てるのか?」
ゆき「ねえ ちょっと 八海さんの様子 見てきてくれない?」
<ゆきさん ナイスアシスト!>
ミワ「はい。」
(ぶつかる音)
ミワ「あっ…!」
<やってしまった…>
八海邸
八海『今日は 少し遅くなります。』
藤浦「そうですか。 分かりました。 明日は10時から取材がありますので。 では よろしくお願いします。」
一駒「それでは 私は失礼します。」
藤浦「お疲れさまでした。」
一駒「珍しいですね ご主人様が こんな時間まで外出されるなんて。」
藤浦「ご友人と会ってるみたいですよ。」
一駒「ご友人?」
藤浦「ええ。」
一駒「あっ ご友人ですか。 なるほど 失礼します。」
BAR・らすべがす
シラー『なぜ黙っているんだ? 何か言うことがあるだろう?』
<えっと 謝らなきゃ… えっと ごめんなさいって英語で…>
ミワ「あ… アイム…。」
(ドアの開く音)
八海「あ~ シラー監督 いらっしゃってたんですか。」
<八海サマ!>
八海「ミワさん 何かあったんですか?」
シラー「八海のツレか?」
<えっ 日本語?>
シラー「服を汚されたのに ずっと黙ってるんだ。」
八海「それは失礼しました。 きっと あなたの顔があまりにも怖かったので 言葉が出なかったのでしょう。」
シラー「もともと こういう顔だ。」
ミワ「(小声で)あの シラー監督って 日本語 お話しされるんですか?」
八海「(小声で)酔うとペラペラになるんです。」
ミワ「あの… 大変 申し訳ありませんでした!」
八海「飲みましょう。」
シラー『彼らの分も一緒に もう帰る』
ゆき「OK。」
八海「シラー監督 待って下さい。 服を汚してしまったおわびも兼ねて 一杯 ごちそうさせてくれませんか。」
シラー「ん…。」
八海「私に用件があったんでしょう?」
シラ「…分かったよ。」