<まずい また謝ろうとしてしまった>
凛「はあ… また こんな感じになっちゃった。」
ゆき「こんな感じって?」
凛「こないだの撮影でもさ 思ってること そのまんま言ったら 現場 凍っちゃったんだよね。」
ゆき「何て言ったの?」
凛「相手の女優さんに 『その芝居おかしくない?』って 言っただけなんだけど。」
ミワ「えっ…。」
ゆき「その人 大女優だったんだ?」
凛「…だったみたい。」
ゆき「海外みたいに ダイレクトな表現に慣れてないからね。」
凛「それがさ 向こうでもやっちゃうんだ 私。」
ミワ「あっ。」
<この人もきっと 八海サマと同じように 孤独を背負っている。 クリエイティブな世界に携わる者だけが 味わう 孤独な世界>
回想
八海「諦めろ お前には無理だ。」
回想終了
<己と向き合い 自問自答を繰り返す自分だけの道。 そこに 誰も救いの手を差し伸べてはくれない>
凛「あっ そうだ さっき八海さんちに 越乃さん来てたでしょ。」
ミワ「はい 対談されてました。」
凛「こないだの撮影でさ 越乃さんに来てた差し入れ 私 バカバカ食べちゃって 何か おわびにプレゼントしたいんだよね。」
ミワ「おわび… ですか。」
凛「うん。 それで考えたのが 越乃さんが昔 映画の中で食べてたお菓子! すっごい古い映画なんだけど 泣きながら おいしそうに食べてるシーンがあって。」
ゆき「それは何ていう映画?」
凛「それがさ 忘れちゃったんだよ。 短いシーンなんだけど 泣きながら おいしそうに食べてて。」
ゆき「全然ヒントが増えてないけど。」
凛「だよねえ。 私も全然覚えてないの。」
<あっ…>
回想
回想終了
凛「ミワさん どした?」
ミワ「あっ 森七の最中… だと思います。」
凛「えっ 何?」
ゆき「森七の最中?」
ミワ「はい あの…。」
凛「えっ ウソ! これ これ! 何で分かったの?」
ミワ「一応 映画を見る時は メモに取るので 越乃さんが泣きながら食べてたっていう ヒントから。」
凛「ミワさんって何者?」
ミワ「えっ?」
凛「だって 家政婦って言いながら 撮影現場にも来るし ここにも来るし 古い映画の そんなワンシーンも 覚えてるなんて。」
ミワ「私は ただの映画オタクです。 それ以上でも それ以下でもなくて。」
凛「ふ~ん。 面白いね ミワさんって。」
ミワ「えっ?」
(ドアベル)
ゆき「いらっしゃい。」
<八海サマ!?」
凛「あ~!」
「おお 凛ちゃん!」
凛「久しぶり! 元気だった?」
「元気だった。 いや~ でも やっぱり ますます きれいになったな。」
凛「でしょ? えっ この店 よく来るの?」
「初めてなんだよ。」
凛「へえ~。」
「うちのスタッフにね 勧められて来たんだけどさ いいね。」
凛「へえ~。 でも私 今日 取材なんだ。」
「そうか それじゃ 邪魔するわけにいかないもんな。 取材 頑張って。」
凛「はい 頑張りま~す。」
「ジントニック。」
ゆき「はい。」
ミワ「(小声で)お知り合い ですか?」
凛「多分ね。 誰だか忘れちゃった。」
ミワ「えっ…。」