八海邸
書斎
(着信)
八海「はい。 はい そうですが。」
ミワ宅
ミワ「紀土くん? どうしたの?」
紀土「あっ ミワちゃん。 あっ こないだ さくらさんにもらった桃 おいしかった。」
ミワ「ああ… 甘かったよね。」
紀土「うん。 お返しに 梨を持ってきたんだけど。」
ミワ「えっ お返しなんていいのに。」
紀土「冷やしたほうがいいから 冷蔵庫に持っていくよ。」
ミワ「いいよ 私 梨 預かるから。」
紀土「重いから 上まで運ぶよ。」
ミワ「いや 預かるから…。」
紀土「いいって 重いから。 大丈夫 大丈夫。」
ミワ「ここで もらうから。」
紀土「こっち? こっちだよね?」
ミワ「大丈夫。 あの 2~3個でいいから…。」
紀土「帰るよ。 梨を持ってきただけなんだから。」
ミワ「さくらさんにも ちゃんと渡しとくね。」
紀土「うん よろしく。 ふう…。」
ミワ「じゃあ おやすみなさい。」
紀土「俺 ショックだわ。」
ミワ「え?」
紀土「八海 崇のこと。」
ミワ「ああ 紀土くんも見たの?」
紀土「うん。」
ミワ「ショックだなんて 意外…。」
紀土「何で?」
ミワ「だって 紀土くんは八海さんのこと 嫌ってると思ってたから。」
紀土「それは ミワちゃんが 八海のこと好きだからでしょ。」
ミワ「えっ…。 あ…。」
紀土「役者を目指していた時は それこそ 八海 崇が目標というか 憧れだったよ。」
ミワ「え… そうだったんだ。」
紀土「ミワちゃんがくれた 『八海 崇の演技メソッド』。 あれ ボロボロになるまで読み込んだし。」
ミワ「ああ…。」
<貸したつもりだったんだけど…>
紀土「だから 俺と八海の演技って 何か似てんのよね。」
ミワ「それは どうかな…。」
紀土「理論的にはね。」
<おこがましい>
紀土「俺にとっては心の兄貴みたいなもんだから やめるのはショックだよ。 でも まあ 長い間お疲れさまでした って感じだよね。 彼に そう伝えといてもらえないかな。」
<いや あなた誰…>
紀土「ミワちゃんも そろそろ卒業じゃない?」
ミワ「卒業?」
紀土「八海 崇からの 卒業。」
<私は たとえ この先 八海サマに会えなくなったとしても 彼の作品が持つ輝きは永遠だし ずっとファンでありつづけるつもりだ>
ミワ「しないよ 卒業なんか。」
紀土「え?」
ミワ「するわけないでしょ。 はい 帰って 帰って。」
紀土「わ… 分かったよ。 あっ 梨は食べる前に 30分ぐらい常温に戻してから食べて…。」
ミワ「おやすみ。」
テレビ・八海『お前が幸せなら 俺は何も言うことねえよ』。
テレビ『お兄ちゃん』。
<私は さみしさを紛らわせるため 八海サマが出ている映画を 夜通し再生し続けた>
ミワ「甘い…。」