三日後
ゆとり「よし、大成功!」
中原「能書きを貼っただけで、ここまで効果てきめんとはな!」
ゆとりこの間までのお品書きだと、お客さんは味のイメージがつきませんでしたから」
中原「内の本店は常連客やネットで下調べして来る客がほとんどだから、品書きや能書きでクドクド説明する必要がなかったからな」
ゆとり「私がそこに気づけたのも、中原さんのお店のことをよく知らなかったからですね」
中原「芹沢が君を寄越したのはそういうアマチュア的な目線で店を観察させるためだったというわけか、いや本当に感謝している」
ゆとり「いえ、それが仕事なので」
清流企画
ゆとり「中原さん大喜びでしたよ。ここからは味の勝負だから一気に巻き返せるハズだって」
芹沢「そんなこと言ってたの中原さん」
ゆとり「ええ、凄く気合入ってました。芹沢社長にも改めてお礼に伺うからって」
芹沢「ダメね。何も分かってない。汐見、あそこの丸鶏ラーメン食べたんでしょ?ワクワクした?」
ゆとり「ワクワク?そういえば、しませんでしたね。でも凄く完成された味だと思いました」
芹沢「ちょうどいい機会だわ汐見、その表現はバカっぽいけど間違ってはいない。ラーメンの本質は確かにワクワクよ!じゃあ、そのワクワクの正体は一体なんだと思う?」
ゆとり「ワクワクの正体ですか?」
芹沢「麺房なかはらへはもう一度様子を見に行きなさい、あの店の問題がわかれば答えは見えてくる、まだ終わってないんだからね!」
ゆとり「まだ終わってない?」
調理室
ゆとり「夏川先輩、どうですか調子は?」
夏川「ダメ、また1から作り直す」
ゆとり「そうですか」
河上「夏川さん、少し厨房をお借りしてもよろしいですか?」
夏川「スイマセン、ずっと居座っちゃって」
河上「いやいやいいんです。今日は皆さん残業になりそうですし、たまには私が夕食をふるまおうかと思いまして、良かったらお2人も食べて見てください」
夕食タイム
一同「いただきます」
ゆとり「面白う味、これアンチョビを使ってますね」
夏川「スープは味噌ととんこつですか?」
河上「アンチョビの微塵切りとおろししょうがを炒めて臭みを消して、香ばしさを引き出してから、とんこつスープを注いで、みそだれで溶いてます。最後の仕上げにエキストラバージンオリーブオイルをかけ回しております」
河上「このラーメンは昔、私が月替わりラーメンとして考案したものの社長にダメ出しされた品です」
白坂「え?これで?」
ゆとり「どうしてですか?凄い完成度でしたよ?」
河上「その理由を教えてあげましょう」
調理室
ゆとり「バターもう焦げ気味ですけど?」
夏川「あれ?この短時間だと」
河上「さあ完成です。これを食べてみてください」
一同「いただきます」
ゆとり「凄い!凄くワクワクします!
須田「さっきより美味い!アンチョビの臭みが残ってるのに」
白坂「こっちと比べるとさっきのラーメンの方がインパクト弱いですよね。凄く味が賑やかというか」
ゆとり「そうです、アンチョビとバターと味噌ととんこつがどんぶりの中でお祭り騒ぎしてるみたい」
夏川「これってつまり、わざと臭みを残したってことですか?」
河上「これが私の考えたアイディアに対して芹沢社長がダメ出しとして作ってっくれたラーメンです」
須田「考えてみれば、とんこつはわざとアク取りをせずに臭みを残したりするしな」
白坂「煮干しの頭や腸を取らずにわざと苦みを生かすこともありますし」
河上「そうですね。でも味の話しだけではないですよ。濃厚さを目指すためにペーストのようなドロドロなスープを使ったり、ボリューム系では食べきれないほどの量を盛ったり、人によっては、もしかしたら抵抗を感じるかもしれない、そういうスリリングな側面が多くの人を病みつきにする、それがラーメンの持つ魅力でしょう」
ゆとり「抵抗を感じるくらいスリリングな側面」
河上「そろそろ仕事に戻らないと」
夏川の考案した月替わりラーメンを試食する芹沢
河上のヒントを基に作ってみたが、芹沢から中途半端にとっ散らかっているとダメ出しされてしまう
芹沢「あと1日だけあげるわ、もう1度1から作り直し、それで無理ならこの仕事からあなたを下す」
夏川「スイマセンいい年して会社で泣いたりして、でも悔しくて私には社長や汐見みたいなセンスがありませんから、やっぱり無理なんでしょうか?私みたいな人間が芹沢社長のようなラーメン職人を目指すなんて?」
芹沢「夏川、あなた確かに汐見みたいな天才型じゃないわ、凡人よ。人一倍努力してセオリーを踏まえる。でもそこから少しでもはみ出そうとすると途端にダメになるわ。でもね、凡人には凡人の戦い方ってものがあるでしょ?」
夏川「え?」
芹沢「職人にとっての1番の敗北はセンスがないことなんかじゃない歩みを止めてしまうことよ」
麺房なかはら
ゆとり「お客さん、この状態で横ばいですか?」
中原「客も味には満足してくれてるハズなんだよ。なのになかなか他の店ほどの入りにはならなくてな・・・」
店を出て考えるゆとり、そこへ有栖登場
有栖「ゆとりちゃん!」
ゆとり「有栖さん、取材ですか?」
有栖「時間が空いたから、今日はプライベートの食べ歩き、端から店を一回りして、今から締めの麺房なかはらに行くところだよ」
ゆとり「真面目の話し、実際何杯食べられるんですか?」
有栖「だってあそこは昔から、スルって食べられるから」
何かに気づくゆとり
ゆとり「ん?あ!」
客A「美味かったな、ここ」
客B「でも、まだちょっと余裕ない?」
客A「あるある、もう1軒くらい行っとくか」
ゆとり「やっぱりそうだ」
そこに電話が鳴る