連続テレビ小説「ちむどんどん」106話「豚とニガナは海を越えて」

数時間後

賢秀「親父さん… さっきのホテルから電話で 取り引きは 白紙に戻させてくれって。」

清恵「ごめん 私のせいで。」

寛大「お前は 悪くない。」

寛大「すまん。」

賢秀「何があったんです? あの男と。」

寛大「結婚してたんだ 清恵。 18で家出して 二十歳の時だ。 ひどい目に遭ってた。 俺が見つけ出して 金を渡して別れさせた。 こっちの身元も 連絡先も明かさずに そのあと 一切連絡を絶った。」

賢秀「じゃあ 俺のせいで… とうとう 見つかってしまったわけですか?」

寛大「だが 今 きっちり話をつけた。 こんなこともあるかと思って 俺なりに あちこちに手は打ってあった。 だから これで 完全にあの男とは 縁が切れた。 ちょっと疲れた。」

ちむどんどん

和彦「何か いい打開策は ありませんかね。」

二ツ橋「必要経費を 見直した方がいいと思います。 例えば 仕入れ原価を抑えるとか。」

暢子「仕入れの質を落としたら もっと お客さんが来なくなるんじゃ…。」

二ツ橋「暢子さん ちょっと聞いていただけますか。」

暢子「はい。」

二ツ橋「私は 昔 レストランを開いて 潰したことがあります。 私なりに 地獄を見ました。 最後は 息をするのも苦しくなり 誰も 信じられなくなりました。」

二ツ橋「飲食業は どんな高級店でも 所詮は 水商売と 呼ばれることもあります。 水商売の語源は 江戸時代。 芸者さんの仕事のことを『泥水商売』と呼んだことから 始まったという説があります。」

暢子「泥水?」

二ツ橋「一見 華やかに見えるけど 実態は 泥水にまみれるような 大変な仕事。 流れる水のように不安定で 大雨が降れば 流されてしまう。 日照りが続けば 干上がってしまう。 うまくいかない時に 目をつぶって 耳を塞いで ただひたすら頑張るのは 私は 反対です。」

二ツ橋「しゃにむに突き進むより 失敗を認めて やり直す方が 勇気が必要で 難しいことです。 私は それが できませんでした。 うまくいかない時は たとえ悔しくても 悲しくても やめてもいいんです。 一度 止まって 休んでもいいんです。 あなたは 飲食店で成功するために 生きているわけではありません。 幸せになるために 生きてるんです。」

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